WCAG 2.2の達成基準1.2.6「手話(事前録画)」は、事前に録画された動画の音声内容を手話でも理解できるようにするための基準です。対象となる同期メディアには、音声と映像が時間に沿って組み合わされた解説動画、講義動画、製品紹介動画などが含まれます。
この達成基準はLevel AAAです。字幕を付ける対応とは目的と要件が異なるため、字幕付き動画であっても、1.2.6への適合を目指す場合は手話通訳を別に用意する必要があります。
達成基準1.2.6が求めること
WCAG 2.2の達成基準1.2.6は、同期メディアに含まれる事前録画音声のすべてに手話通訳を提供することを求めています。
- 事前録画
- ライブ配信ではなく、収録と編集を終えてから公開する音声や動画です。
- 同期メディア
- 音声と映像など、複数の情報が時間に合わせて提示されるコンテンツです。
- 手話通訳
- 音声で伝えている発話や、内容の理解に必要な音の情報を、対象となる手話言語で伝える映像です。
手話を主なコミュニケーション手段とする利用者にとって、文字で書かれた字幕より手話のほうが理解しやすい場合があります。手話通訳は字幕を置き換えるものではなく、音声情報へ到達するための別の手段です。
字幕と手話通訳の違い
| 項目 | 字幕 | 手話通訳 |
|---|---|---|
| 情報の形式 | 発話や必要な音の情報を文字で示す | 発話や必要な音の情報を手話で示す |
| 1.2.6での扱い | 字幕だけでは要件を満たさない | 事前録画音声の内容を手話で提供する |
| 利用時の確認 | 文字の正確さ、表示時間、読みやすさを確認する | 通訳内容、見やすさ、元動画との同期を確認する |
字幕の要件と実装は、関連記事のWCAG 2.2「1.2.2 字幕(事前録画)」の解説で確認できます。
手話通訳を提供する2つの方法
元の動画に通訳映像を組み込む
一つ目は、手話通訳者の映像を元の動画内に配置し、一つの動画ファイルとして公開する方法です。W3Cの達成方法G54でも、手話通訳者を動画ストリームに含める方法が示されています。
映像と手話通訳が最初から一つになっているため、再生、一時停止、早送りをしても両者がずれにくく、ウェブページ側の実装も比較的単純です。一方で、通訳映像だけを非表示にしたり、個別に拡大したりすることは難しくなります。
動画ファイルを用意した後のHTMLは、次のように簡潔に書けます。
<video controls preload="metadata">
<source src="example-with-sign-language.mp4" type="video/mp4">
このブラウザでは動画を再生できません。
</video>
このコードが手話通訳を作るわけではありません。通訳者の映像を見やすく配置し、音声内容を適切に伝えた動画ファイルを制作しておくことが前提です。
通訳映像を別の同期ストリームとして表示する
二つ目は、元動画と手話通訳動画を別々に用意し、プレイヤー上で同期して再生する方法です。W3Cの達成方法G81では、通訳映像を別の表示領域または元動画上のオーバーレイとして提示する方法が説明されています。
この方式では、利用者が手話通訳の表示を切り替えたり、通訳映像だけを拡大したりできる設計が可能です。ただし、別の動画を表示するだけでは同期になりません。再生、一時停止、シーク、再生速度の変更、通信の中断後に再開した場合まで、元動画と通訳映像の時刻を一致させる必要があります。
単純なHTMLと表示切替だけでは、この同期を安定して保証できません。複数の映像ストリームを同期できるプレイヤーを選び、実際の操作条件でずれが生じないか確認します。
手話通訳の制作と表示で確認すること
対象者が使う手話言語を決める
手話は一種類ではありません。日本手話やアメリカ手話など、想定する利用者に合う手話言語を選びます。複数の地域や言語圏を対象とする場合は、必要な手話言語を選択できる提供方法を検討します。
手と表情が読み取れる画角を確保する
手話では手や腕の動きだけでなく、顔の表情や身体の動きも情報を伝えます。通訳者が小さすぎる、手が画面外に切れる、元映像の文字や図と重なるといった状態を避けます。
固定した小さな表示幅だけで適否を判断することはできません。画面サイズの異なる端末でも見やすいか、全画面表示や拡大が使えるかを確認します。
音声内容と通訳の対応を確認する
会話だけでなく、内容の理解に必要な音の情報も含めて確認します。通訳内容の正確さは、対象の手話言語を理解し、元の音声も確認できる人によるレビューが必要です。
利用者が操作できる状態を保つ
通訳映像を選択式にする場合は、表示と非表示の操作を見つけやすくし、キーボードでも操作できるようにします。別表示にした通訳映像が本文やプレイヤーの主要な操作を隠さないことも確認します。
公開前の確認チェックリスト
- 対象が事前録画された音声を含む同期メディアか。
- 発話と、理解に必要な音の情報が手話で伝えられているか。
- 想定する利用者に合う手話言語を選んでいるか。
- 通訳者の手、腕、表情、身体の動きが見切れずに読み取れるか。
- 小さな画面でも通訳映像を確認でき、必要に応じて拡大できるか。
- 元動画と通訳映像が、再生、一時停止、シーク、速度変更の後も同期しているか。
- 通訳表示の操作がキーボードでも行えるか。
- 対象の手話言語に詳しい確認者が、通訳内容と同期をレビューしたか。
よくある実装上の誤解
- 「字幕があれば1.2.6も満たせる」:字幕と手話通訳は異なる提供手段です。1.2.6では手話通訳が必要です。
- 「二つの動画を同時に表示すれば同期できる」:再生開始だけでなく、一時停止やシークなどの操作後も時刻が一致している必要があります。
- 「通訳映像を一定の小さなサイズにすればよい」:必要なのは、手や表情を実際に読み取れる表示です。端末やプレイヤーごとに確認します。
- 「特定の技術を使わなければならない」:WCAGの達成方法は実装例であり、特定の技術だけを義務付けるものではありません。要件を満たし、検証できる方法を選びます。
関連する動画アクセシビリティ
1.2.6だけを単独で確認すると、字幕や音声解説との役割分担が分かりにくくなります。動画と音声に必要な代替手段の全体像は、時間依存メディアの対応方法も併せて確認してください。
字幕、視覚的な通知、手話、当事者による確認を含む設計は、聴覚障害者に配慮したウェブデザインの実践ポイントで整理しています。
手話付き動画を設計するときの要点
達成基準1.2.6への対応では、手話通訳映像の有無だけでなく、音声内容を十分に伝えているか、通訳者を見やすく表示できるか、元動画と同期しているかを確認します。
動画内への組み込みは実装を単純にしやすく、別ストリームでの提供は表示方法を利用者が選びやすくなります。制作体制、プレイヤーの機能、利用者の要望を踏まえて方式を選び、公開前に実際の操作と通訳内容を検証してください。
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