厚生労働省は、2026年7月に新たに作成されたページから150ページを選び、JIS X 8341-3:2016の適合レベルAAに準拠したとする試験結果を公表しました。
厚生労働省のウェブアクセシビリティ試験結果によると、試験日は7月28日と29日、表明日は7月31日で、対象技術はHTML、CSS、JavaScriptです。
今回の結果から学べるのは、アクセシビリティを公開前だけの点検にせず、新しく増えるページの品質管理に組み込む方法です。
ただし、試験対象はサイト全体ではなく、施策情報、報道発表、審議会資料などを優先して選定した150ページであり、結果の範囲を正確に読む必要があります。
今回の試験結果で確認できる範囲
| 確認項目 | 公表内容 |
|---|---|
| 対象 | 当月に新規作成されたページから選定した150ページ |
| 規格 | JIS X 8341-3:2016 |
| 対応度 | 適合レベルAAに準拠 |
| 試験日 | 2026年7月28日から29日 |
| 依存技術 | HTML、CSS、JavaScript |
公表された達成基準チェックリストでは、非テキストコンテンツ、コントラスト、キーボード操作、フォーカスの可視化、見出しとラベル、名前と役割と値などが確認されています。
一方で、「150ページがAAに準拠した」は「厚生労働省サイトの全ページが同じ状態にある」という意味ではありません。
対象範囲、ページの選び方、試験日、依存技術を結果と一緒に公開することで、第三者が試験の射程を判断できます。
JIS X 8341-3とWCAG 2.2は同じではない
国内のウェブコンテンツ向け規格であるJIS X 8341-3:2016と、W3Cの最新勧告であるWCAG 2.2は、関連していますが同一ではありません。
W3CのWCAG 2概要では、WCAG 2.2を知覚可能、操作可能、理解可能、堅牢という4原則の下に13のガイドラインを置き、達成基準をA、AA、AAAの3段階に分類しています。
WCAG 2.2はWCAG 2.1に九つの達成基準を追加し、従来の達成基準4.1.1「構文解析」を廃止扱いにしました。
そのため、JIS X 8341-3:2016への対応だけを根拠に、WCAG 2.2のAAにも対応済みだと読み替えることはできません。
実際、デジタル庁のウェブアクセシビリティ方針は、JIS X 8341-3:2016のAA準拠を目標としつつ、同規格に含まれないWCAG 2.2のAとAAの達成基準18項目も別に掲げています。
デジタル庁は2026年3月31日時点の確認結果をJISの適合レベルAに一部準拠とし、AA準拠と追加18項目の達成を2027年3月31日までの目標にしています。
規格の差分を実装単位で確認したい場合は、サイト内のWCAG 2.2で追加された達成基準の実務解説も参照できます。
検証を三つの層に分ける
ウェブアクセシビリティの検証は、自動チェック、専門知識を持つ人の手動確認、利用者による確認の三つに分けると、見落としの原因を管理しやすくなります。
W3Cの評価ガイドも、設計と開発の早い段階から継続して評価することを勧め、単独のツールだけでは規格適合を判定できないと説明しています。
- 自動チェック:代替テキストの有無、フォーム部品のラベル、色のコントラスト、HTML上の名前と役割など、機械判定できる項目を広く確認します。
- 手動確認:キーボードだけでの操作、フォーカス順序、拡大時のリフロー、エラー表示の理解しやすさ、動画の代替手段を人が確かめます。
- 利用者による確認:スクリーンリーダー、音声入力、画面拡大などを利用する人が、検索、申請、購入、問い合わせといった主要な操作を完了できるかを確かめます。
自動チェックは大量のページを同じ条件で繰り返せる反面、代替テキストが画像の目的を正しく伝えるか、操作順序が利用者の意図に合うかまでは保証しません。
手動確認と利用者確認を組み合わせる理由は、達成基準の形式だけでなく、実際に目的を達成できるかを検証するためです。
更新作業に組み込む五つの手順
1.対象範囲と基準を決める
サイト全体、特定のサービス、更新ページ群のどこまでを対象にするかを決め、JIS X 8341-3:2016とWCAG 2.2のどの適合レベルを目指すかを明記します。
対象外ページがある場合は、第三者が判断できるURLやディレクトリ単位で示します。
2.重要な利用経路を先に特定する
ログイン、検索、予約、購入、申請、問い合わせなど、途中で止まると利用者の不利益が大きい経路を優先します。
ページ数の多さだけで標本を選ぶと、数は少なくても重要なフォームや認証画面が試験から漏れるためです。
3.部品の段階で自動確認する
見出し、リンク、ボタン、入力欄、モーダルなどを共通部品として整え、開発中の自動テストとコードレビューに確認項目を入れます。
同じ欠陥を多数のページへ複製する前に直せるため、公開後の修正範囲を抑えられます。
4.公開前後に手動確認を行う
自動判定を通過した画面でも、キーボード操作、画面拡大、読み上げ、エラーからの復帰を主要ブラウザーと支援技術で確認します。
公開後はCMSの更新や外部サービスの変更で状態が変わるため、定期試験と重大変更後の再試験を分けて計画します。
5.結果と改善計画を残す
試験対象、選定方法、基準、実施日、未達項目、修正期限、担当者を記録し、公開できる範囲をアクセシビリティ方針や試験結果として示します。
運用体制を詳しく設計する際は、サイト内の公開後の試験と改善を続ける体制づくりも参考になります。
小さく始めるための確認表
| 時点 | 確認内容 | 残す記録 |
|---|---|---|
| 企画 | 対象範囲、適用規格、目標レベル、重要な利用経路 | 方針、対象URL、責任者 |
| 設計 | 見出し構造、色だけに依存しない伝達、操作順序、エラー回復 | 受け入れ条件、画面仕様 |
| 実装 | セマンティックHTML、名前と役割、キーボード操作、自動チェック | テスト結果、レビュー記録 |
| 公開前 | 拡大、リフロー、読み上げ、主要経路の完了 | 手動試験票、未達一覧 |
| 公開後 | 更新ページの標本試験、問い合わせ分析、重大変更後の再試験 | 試験結果、改善期限、再確認日 |
最初から全項目を一度に運用できない場合でも、重要な利用経路と共通部品から対象を広げれば、改善の優先順位を説明できます。
ただし、対象を限定したままサイト全体の適合を表明することはできないため、範囲と未達事項は明確に残します。
編集部の視点
厚生労働省の公表方法で評価したいのは、試験結果だけでなく、対象ページの選び方と実施日を示している点です。
アクセシビリティは達成率の数字を競う作業ではなく、誰がどのサービスを使える状態にするのかを具体化する品質管理です。
行政機関の事例をそのまま模倣する必要はありませんが、更新のたびに対象を決め、試験し、結果を残す流れは、企業サイトやEC、予約サービスにも応用できます。
よくある質問
自動チェックに合格すればAA準拠と表明できますか
自動チェックだけでは表明できません。
機械では判断できない達成基準があるため、対象範囲を定めたうえで、専門知識を持つ人の手動確認を含む適切な試験が必要です。
JIS X 8341-3:2016のAA準拠とWCAG 2.2のAA準拠は同じですか
同じではありません。
共通する達成基準は多いものの、WCAG 2.2にはJIS X 8341-3:2016に含まれない達成基準があり、廃止扱いになった達成基準もあります。
全ページを毎回試験する必要がありますか
更新のたびに全ページを試験する方法だけが選択肢ではありません。
共通部品の自動確認、重要な利用経路の全数確認、代表ページの標本試験を組み合わせますが、適合を表明する際は採用した方法と対象範囲を明示する必要があります。
参照した一次情報
- 厚生労働省「ウェブアクセシビリティ試験結果 2026年7月」
- デジタル庁「ウェブアクセシビリティ」
- W3C Web Accessibility Initiative「WCAG 2 Overview」
- W3C Web Accessibility Initiative「Evaluating Web Accessibility Overview」
