ウェブアクセシビリティとは、障害の有無、年齢、利用する端末や支援技術にかかわらず、ウェブ上の情報と機能を利用できるように設計し、運用することです。
対象には、ウェブページだけでなく、オンライン手続き、電子文書、動画、モバイルアプリなどが含まれる場合があります。
ただし、法的義務の対象と内容は国や地域によって異なります。
公共機関に具体的な技術基準を課す制度もあれば、差別禁止法に基づいて事業者へ合理的な対応を求める制度もあります。
「アクセシビリティ法がある国では、すべてのウェブサイトに同じ基準が一律に適用される」という理解は正確ではありません。
この記事は制度の全体像を理解するための一般情報です。
個別の事業やサービスに適用される法令、例外、移行期間は、対象地域の行政機関または法律の専門家に確認してください。
WCAGと法律は同じものではない
WCAGは、W3Cが策定するウェブコンテンツのアクセシビリティに関する技術的なガイドラインです。
画像の代替テキスト、キーボード操作、字幕、フォームのラベルとエラー表示など、情報や機能を利用しやすくするための達成基準を示しています。
WCAG自体は法律ではありません。
しかし、法令や公的調達基準が特定の版と適合レベルを参照すると、その範囲では実務上の要求事項になります。
法令が参照する版と、W3Cが公開している最新版が一致するとは限らないため、両方を分けて確認する必要があります。
詳しい考え方は、サイト内のWCAG 2.2の基本と実務上の読み方でも解説しています。
主要な国と地域の制度比較
| 国または地域 | 主な制度 | 主な対象 | 確認上の注意 |
|---|---|---|---|
| 米国 | ADA、リハビリテーション法508条 | 州政府と地方政府、公共向け事業者、連邦機関の情報通信技術 | ADAのタイトルと組織区分によって義務が異なる |
| カナダ | アクセシブル・カナダ法 | 連邦政府と連邦規制下の民間部門 | 州または準州の制度とは適用範囲が別 |
| EU | ウェブアクセシビリティ指令、欧州アクセシビリティ法 | 公共部門のサイトとアプリ、対象となる消費者向け製品とサービス | 加盟国の国内法、業種、例外を確認する |
| 英国 | 公共部門アクセシビリティ規則、平等法2010 | 公共部門のサイトとアプリ、サービス提供者 | 公共部門の具体的義務と合理的調整を区別する |
| オーストラリア | 障害者差別禁止法 | デジタルの商品やサービスを提供する組織 | WCAGは重要な判断基準だが、ガイドライン自体は法令ではない |
| 韓国 | 障害者差別禁止法と施行令 | 法令が定める機関と事業者のウェブサイトやアプリ | 対象は段階的な範囲と個別基準で確認する |
| 日本 | 障害者差別解消法、JIS X 8341-3 | 行政機関と事業者による合理的配慮、ウェブ環境の整備 | 個別の合理的配慮と、事前の環境整備を区別する |
各制度の対象範囲
米国:ADAとリハビリテーション法508条
ADA(障害を持つアメリカ人法)は、障害を理由とする差別を禁じる連邦法です。
タイトルIIは州政府と地方政府のサービス、プログラム、活動に適用され、ウェブサイトやモバイルアプリも対象になります。
米国司法省は、タイトルIIの対象となるウェブコンテンツとアプリについて、WCAG 2.1のレベルAおよびAAを技術基準とする規則を定めています。
一方、タイトルIIIは一般の利用者に開かれた事業者に関係します。
ウェブ上のサービスが利用できない状態はADA上の問題になり得ますが、事業内容やサービスとの関係を含めて判断されます。
したがって、「米国内の全サイトに一つの義務が適用される」とは整理できません。
リハビリテーション法508条は、連邦機関が開発、調達、維持、利用する情報通信技術を対象とします。
ウェブサイトだけでなく、ソフトウェアや電子文書なども含む点がADAとの違いです。
カナダ:アクセシブル・カナダ法
アクセシブル・カナダ法(ACA)は、連邦の管轄にある障壁を特定し、取り除き、新たな障壁を防ぐための法律です。
対象には、連邦政府の機関に加え、銀行、連邦交通網、放送、通信など、連邦政府が規制する民間部門が含まれます。
旧記事にあった「2025年までに完全にアクセシブルな国を目指す」という記述は、現在の政府説明と一致しません。
法律の目標は2040年までにバリアのないカナダを実現することであり、アクセシビリティ計画、意見受付の仕組み、進捗報告などを通じて改善を進めます。
州または準州の管轄にある組織には、それぞれの法制度を確認する必要があります。
EU:公共部門の指令と消費者向けサービスの法律
ウェブアクセシビリティ指令は、EU加盟国の公共部門が提供するウェブサイトとモバイルアプリを主な対象とします。
加盟国は指令を国内法に反映し、適合状況の説明や監視を含む仕組みを整えています。
実務では、WCAGと共通点を持つ欧州規格EN 301 549との関係も確認します。
これとは別に、欧州アクセシビリティ法(EAA)は、2025年6月28日以降に提供される対象製品と消費者向けサービスに適用されています。
電子商取引、消費者向け銀行サービス、電子書籍、一定の旅客交通サービスなどが対象に含まれますが、すべての企業とウェブサイトを一律に対象とする制度ではありません。
日本法との違いを含む詳しい説明は、日本の改正法とEUアクセシビリティ法の比較を参照してください。
英国:公共部門の規則と合理的調整
公共部門のウェブサイトとモバイルアプリには、公共部門のウェブサイトおよびモバイルアプリのアクセシビリティ規則が適用されます。
対象組織はアクセシビリティ要件を満たすだけでなく、サイトやアプリの対応状況を説明するアクセシビリティステートメントを公開し、定期的に見直します。
平等法2010は、イングランド、スコットランド、ウェールズにおける差別禁止と合理的調整の根拠です。
北アイルランドでは別の障害者差別禁止法が関係します。
公共部門向けの具体的な規則と、サービス提供者に求められる合理的調整は、同じ義務ではありません。
オーストラリア:障害者差別禁止法
障害者差別禁止法(DDA)は、商品やサービスなどの提供における障害を理由とする差別を違法とします。
オーストラリア人権委員会は、デジタル商品とサービスへの平等なアクセスについて、2025年に更新したガイドラインを公開しています。
このガイドラインは、WCAGをデジタルアクセシビリティの国際的な基準として位置付けています。
ただし、ガイドライン自体には法的拘束力がなく、DDAと州または準州の差別禁止法を合わせて判断する必要があります。
旧記事の「公共機関や一部企業はWCAG 2.0で設計する必要がある」という一律の表現は、この違いが伝わるように改めました。
韓国:障害者差別禁止法と国内基準
韓国の障害者差別禁止法と施行令は、法令が定める機関や事業者に対し、障害のある人が利用できるウェブサイトなどの提供を求めています。
施行令は、身体的または技術的な条件にかかわらず、必要なサービスをウェブサイトから利用できることを必要な手段の一つとして示しています。
モバイルアプリについても、対象者と提供すべき配慮が段階的に定められています。
KWCAGは韓国のウェブコンテンツ向けアクセシビリティ基準です。
ただし、旧記事にあった「KWCAG 2.1はWCAG 2.0のレベルAに準拠する」という説明は、法的義務の範囲と技術基準の関係を単純化しすぎるため削除しました。
対象組織、サービス、基準の版は、現行法令と所管機関の案内で確認するのが安全です。
日本:合理的配慮の義務とウェブ環境の整備
日本について「ウェブアクセシビリティは義務化されていない」とだけ説明するのは不十分です。
2024年4月1日から、改正障害者差別解消法により、事業者による合理的配慮の提供が義務になりました。
合理的配慮とは、障害のある人から社会的な障壁を取り除くための申出があったときに、負担が重すぎない範囲で必要な対応を検討し、提供することです。
一方、誰でも利用しやすいウェブサイトやアプリをあらかじめ整える環境の整備は努力義務です。
すべての民間サイトにJIS X 8341-3やWCAGへの一律準拠を直接命じる仕組みとは異なりますが、アクセシブルな設計と運用は合理的配慮を円滑に提供する土台になります。
適用法と対応範囲を確認する順序
- 利用地域を特定する
運営会社の所在地だけでなく、どの国や地域の利用者へ商品やサービスを提供しているかを整理します。 - 組織とサービスを分類する
公共機関か民間事業者か、業種、規模、政府との契約、消費者向けサービスの種類を確認します。 - 法令と国内実施法を確認する
国際的な指令だけで判断せず、国内法、規則、例外、移行期間、所管機関の最新案内まで確認します。 - 技術基準の版と適合レベルを決める
法令が参照するWCAGなどの版と、改善目標として採用する最新版を区別して記録します。 - 制作から運用まで担当を決める
自動検査だけで終えず、キーボード操作、スクリーンリーダー、表示拡大、フォームのエラー、動画の字幕などを人の操作でも確認します。 - 更新後も検証する
新しい記事、商品ページ、PDF、外部サービスの埋め込みによって問題が再発するため、公開後の点検と利用者からの意見受付を続けます。
組織内での進め方は、発注、設計、実装、運用にアクセシビリティを組み込むチェックポイントで具体的に確認できます。
法令対応を一つの機能だけで判断しない
アクセシビリティ支援機能は、利用者が文字の見え方や表示を調整する助けになる場合があります。
しかし、一つのウィジェットを導入するだけで、HTMLの構造、キーボード操作、代替テキスト、フォーム、字幕、文書、継続的な運用まで自動的に適合するわけではありません。
当社では、サイト上の利用を支援する選択肢としてUUU ウェブアクセシビリティウィジェットツールを提供しています。
導入を検討する際は、適用法の確認、サイト本体の改善、当事者を含む利用者テスト、更新後の検証と組み合わせてください。
