欧州アクセシビリティ法(EAA)は、EU市場の特定の製品と消費者向けサービスに共通のアクセシビリティ要件を設ける指令です。
EU加盟国は、この指令を国内法へ移し、原則として2025年6月28日からその措置を適用しています。
EAAには免除や制限がありますが、どの事業者にも一律に使える包括的な例外ではありません。
最初に対象範囲を確認し、次に零細企業向けの免除と、個別の要件に対する制限を分けて判断する必要があります。
この記事では、Directive (EU) 2019/882の条文に沿って、免除と例外の違い、評価に必要な記録、日本企業が確認する順序を整理します。
対象製品とサービスの全体像は、欧州アクセシビリティ法の対象、例外、対応手順も参照してください。
免除、対象外、第14条の制限は別の仕組み
EAAへの対応可否を検討するときは、次の三つを混同しないことが出発点です。
| 区分 | 根拠 | 意味 |
|---|---|---|
| 対象外 | 主に第2条 | 製品、サービス、コンテンツが、そもそも指令の対象範囲に入らない |
| 零細企業によるサービス提供 | 第4条5項 | 定義を満たす零細企業が提供するサービスは、同条3項のアクセシビリティ要件と関連義務を免除される |
| 個別要件の適用制限 | 第14条 | 基本的性質の根本的変更、または不均衡な負担が生じる範囲に限り、要件の適用が制限される |
たとえば第2条は、2025年6月28日より前に公開された録画済みの時間依存メディアやオフィス文書、一定の第三者コンテンツ、同日以降に更新も編集もされないアーカイブなどを、ウェブサイトとモバイルアプリの対象コンテンツから外しています。
これは第14条の負担評価を経て得る免除ではなく、対象範囲そのものの規定です。
零細企業の免除はサービス提供に限られる
零細企業とは、従業員が10人未満であり、年間売上高が200万ユーロ以下、または年間貸借対照表合計が200万ユーロ以下の企業です。
第4条5項の免除は、この定義を満たす企業が対象サービスを提供する場合に適用されます。
製品を製造、輸入、流通する零細企業まで、EAAの義務から一律に免除されるわけではありません。
製品を扱う零細企業には、第14条に基づく評価結果の文書化が免除されますが、当局から求められたときは評価に関係する事実を示す必要があります。
したがって、従業員数と財務基準だけを見て「自社はEAAの対象外」と結論づけることはできません。
サービス提供者なのか、製品の製造者、輸入者、流通事業者なのかを先に整理します。
第14条が定める二つの適用制限
第14条は、アクセシビリティ要件を適用することで「基本的性質の根本的変更」または「不均衡な負担」が生じる範囲を扱います。
どちらも事業者が個別に評価する仕組みであり、製品やサービス全体を自動的に免除する分類ではありません。
基本的性質の根本的変更
基本的性質の根本的変更とは、要件へ適合するための変更によって、製品またはサービスの基本的な性質が変わってしまう状態です。
単に改修が難しい、開発工程が増える、既存仕様を直す必要があるという事情だけでは、この制限に該当すると決められません。
評価では、どのアクセシビリティ要件が、製品やサービスのどの基本的性質を、なぜ大きく変えるのかを具体的に対応づけます。
根本的変更を生じさせない要件には、通常どおり対応する必要があります。
不均衡な負担
不均衡な負担とは、事業者の規模だけでなく、適合に必要な純費用と事業全体の費用、売上高、利用者が得る便益などを比較した結果、追加負担が過大になる場合を指します。
費用が発生するという事実だけでは足りず、附属書VIの基準に沿った評価が必要です。
| 評価軸 | 確認する内容 |
|---|---|
| 適合の純費用と全体費用の比率 | 製造、輸入、流通、サービス提供にかかる運営費と資本支出に対し、適合の純費用がどの程度を占めるか |
| 費用と便益の比較 | 事業者の費用と投資を、障害のある人が得る便益、製品やサービスの利用量と利用頻度に照らして評価する |
| 適合の純費用と純売上高の比率 | 適合の純費用が事業者の純売上高に占める割合を確認する |
純費用には、専門人材、研修、開発工程の変更、ガイダンス作成、法令理解、設計、製造、試験、文書作成などの費用が含まれます。
優先順位が低いこと、時間がないこと、知識が不足していることは、それだけでは正当な理由になりません。
外部の公的資金または民間資金をアクセシビリティ改善のために受けている場合、その資金の対象について不均衡な負担を主張することはできません。
不均衡な負担にならない要件は、適用を続ける必要があります。
免除や制限を判断する実務手順
- 対象範囲を確認する:第2条を基に、製品、サービス、コンテンツがEAAの対象かを確認します。
- 自社の役割を特定する:製造者、輸入者、流通事業者、サービス提供者のどれに当たるかを整理します。
- 適用する仕組みを分ける:零細企業によるサービス提供の免除なのか、第14条の個別評価なのかを区別します。
- 要件ごとに評価する:基本的性質への影響、附属書VIの費用と便益、代替可能な対応、対応できる範囲を記録します。
- 評価結果を保存し、当局へ知らせる:第14条を利用する場合、原則として評価を文書化し、製品を市場へ最後に提供した時点、またはサービスを最後に提供した時点から5年間、関係する結果を保管します。該当する製品またはサービスを提供する加盟国の所管当局へ、その旨の情報も送ります。
- 変更時に見直す:サービス提供者が不均衡な負担に依拠する場合、サービス変更時、当局から求められたとき、少なくとも5年ごとに評価を更新します。
指令は各加盟国の国内法を通じて運用されるため、通知先、様式、期限、執行方法は提供先の国ごとに確認します。
複数国で販売または提供する場合は、対象国と所管当局を一覧にして管理すると確認漏れを防ぎやすくなります。
「例外」と誤解しやすい項目
- 特注品であること:個別開発や一対一の提供であることだけを理由に、第14条の独立した免除カテゴリにはなりません。まず第2条の対象範囲と、該当する要件を確認します。
- 機密情報を扱うこと:機密保持は、第14条が列挙する独立した免除カテゴリではありません。公開できない情報と、利用者が操作または理解するために必要なアクセシビリティ対応を分けて検討します。
- 費用が高いこと:見積額だけで不均衡な負担は決まりません。附属書VIの比率と利用者の便益を含めて評価します。
- 一部要件が難しいこと:一つの要件に制限が認められても、負担にならない別の要件まで免除されるわけではありません。
日本企業が確認するチェックリスト
- EUの消費者向けに、EAA対象の製品またはサービスを提供しているか
- 製品とサービスのどちらを扱い、自社はどの事業者区分に当たるか
- 零細企業の従業員基準と財務基準を満たし、サービス提供の免除に該当するか
- 第14条を利用する要件と、通常どおり対応する要件を分けたか
- 費用、売上高、利用頻度、利用者の便益を同じ評価資料で比較できるか
- 評価結果、根拠資料、通知記録、見直し時期を管理しているか
- 提供先の加盟国における国内法と所管当局を確認したか
法的な免除判定と、利用者が実際に使えるかという品質評価は別の作業です。
対象となるWebサービスでは、Webアクセシビリティを発注、設計、実装、運用へ組み込むチェックポイントも併せて確認すると、法務と開発の担当範囲を結びつけやすくなります。
判断の出発点
EAAの免除を検討するときは、広い意味の「例外」を探すのではなく、対象外、零細企業によるサービス提供、第14条の個別制限を順に切り分けます。
そのうえで、対応できない要件と理由だけでなく、対応できる要件と実施内容も残すことが、当局への説明と継続的な改善につながります。
本記事はEAA指令の一般的な整理であり、個別案件への法的助言ではありません。
実際の判断では、提供先の加盟国法と所管当局の案内を確認し、必要に応じて現地の専門家へ相談してください。
参考資料
この記事に関連する株式会社greedenの取り組み
EAA対応では、免除の可否を判断するだけでなく、利用者が実際に使える状態へ近づける視点が大切です。株式会社greedenは、Webアクセシビリティのチェックと、文字サイズ変更やコントラスト調整などを追加できる「UUU」を提供しています。
