暗号資産を金融商品取引法の枠組みで規制する改正法が、2026年7月15日に成立しました。
変わるのは法律の名前だけではなく、発行時と取扱開始後の情報開示、事業者の登録と行為規制、インサイダー取引への対応です。
ただし、成立した翌日から新規制や20%の申告分離課税が始まるわけではありません。
事業者と投資家は、改正法の施行日と税制の適用開始日を分けて確認する必要があります。
改正法と税制の二つの時間軸
| 論点 | 決まったこと | 適用時期 |
|---|---|---|
| 暗号資産の業規制 | 主な規制を資金決済法から金融商品取引法へ移し、情報開示、登録、取引規制を整備 | 公布日から1年以内で政令が定める日 |
| 個人の譲渡益 | 一定の特定暗号資産を対象に、所得税15%と個人住民税5%の申告分離課税を導入 | 金融商品取引法改正の施行日が属する年の翌年1月1日以後 |
| 損失の繰越し | 一定の要件のもとで3年間の繰越控除を導入 | 申告分離課税と同じ適用開始日 |
参議院の議案情報には、暗号資産に関する主要部分の施行日を「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」とすることが記載されています。
一方、財務省の税制改正資料は、申告分離課税の開始を金融商品取引法改正の施行年の翌年1月1日に結び付けています。
たとえば主要部分が2026年中に施行されれば税制は2027年1月1日から、2027年中に施行されれば2028年1月1日からという関係です。
金融商品取引法への移行で変わる四つの規制
発行者と取扱事業者に情報開示を求める
発行者がいる暗号資産では、募集や売出しに際して投資判断に必要な情報を公表する制度が整備されます。
金融庁の法案要綱は、一定の場合に監査証明を求め、虚偽情報について民事責任や課徴金を設ける内容を示しています。
発行者による公表がない暗号資産を取り扱う事業者には、取扱開始時の暗号資産情報と、取扱期間中の臨時情報を公表する義務が設けられます。
売買、募集、借入れを業規制の対象にする
暗号資産の売買、特定暗号資産の募集や売出し、暗号資産の借入れなどを業として行う行為は、金融商品取引業の枠組みに入ります。
登録業者であることは価格や元本の保証を意味せず、事業者の体制と行為を監督するための入口です。
インサイダー取引規制を設ける
一定の登録業者が取り扱う暗号資産について、取引判断に重大な影響を及ぼす未公表情報を利用した売買を規制する仕組みが導入されます。
上場株式の規制をそのまま複製するのではなく、暗号資産の発行と流通の特性に合わせた規定です。
資金決済法から規制を移す
暗号資産取引に関する業規制を金融商品取引法へ移すため、対応する規定は資金決済法から削除されます。
ただし、暗号資産そのものを有価証券と同じものにする制度ではなく、金融庁は「有価証券とは異なる金融商品」として位置付ける考え方を示しています。
「税率20%」がすべての暗号資産取引に及ばない理由
申告分離課税の対象は、金融商品取引業者登録簿に登録される暗号資産など、法律上の要件を満たす特定暗号資産です。
財務省資料は、居住者などが暗号資産取引業者に対して特定暗号資産を譲渡する場合を対象としており、どのトークンをどの経路で取引しても一律20%になるとはしていません。
対象となる取引では他の所得と分けて20%(所得税15%、個人住民税5%)で課税し、一定の損失は翌年以後3年間にわたって繰り越せる制度です。
対象外となる暗号資産や取引の扱いは区分が異なる可能性があるため、取引所名、銘柄、取引相手、売買か交換か、手数料を含む約定記録を残す必要があります。
国税庁が現在案内している取扱いでは、暗号資産の売却や使用による利益は、事業所得などに付随する場合を除き、原則として雑所得です。
新制度の適用開始前の取引を、20%の申告分離課税がすでに始まった前提で計算することはできません。
暗号資産を扱う事業者が確認する項目
- 法的役割:自社が発行者、売買事業者、仲介者、助言者、システム提供者のどれに該当し得るかを整理する。
- 取扱資産:トークンごとに現行法上の分類、登録簿への掲載状況、発行者の有無を確認する。
- 施行日:公布、政令で定める施行日、税制の適用開始日を別々に管理する。
- 情報提供:リスク、手数料、保管方法、取引制限、利益相反を利用者が比較できる形で示す。
- 売買監視:重要情報に触れる担当者と取引権限を分離し、アクセス記録と承認履歴を残す。
- セキュリティ:鍵管理だけでなく、委託先、復旧手順、不正流出時の連絡と補償方針まで点検する。
- 税務記録:約定時刻、円換算額、取得価額、手数料、ウォレット移動を追跡できる台帳を維持する。
導入前の管理項目は、関連記事「仮想通貨を事業で扱う前に確認したいリスク管理の要点」でも確認できます。
利用者向け画面で避けたい誤表示
サービス画面で「金商法対象だから安全」「税率は一律20%」「登録銘柄なら損をしない」と表示することは、制度の範囲を越えた説明です。
登録は事業者の適格性や業務体制を監督する仕組みであり、価格下落、プロジェクト失敗、不正流出をなくす保証ではありません。
税率表示には対象資産、取引経路、適用開始日という条件を添え、個別の申告判断は税務署または税理士への確認につなげる設計が必要です。
よくある質問
暗号資産の利益はすでに20%課税ですか
いいえ、申告分離課税は金融商品取引法改正の施行年の翌年1月1日以後に始まる制度であり、それまでは現在の課税関係を確認する必要があります。
すべての暗号資産が申告分離課税の対象ですか
いいえ、登録簿に登録される暗号資産などの要件を満たす特定暗号資産と、対象となる取引が中心です。
改正法の成立で暗号資産ETFが自動的に認められますか
いいえ、今回の法改正だけで個別のETFが承認されるわけではなく、商品組成、上場、販売には別の要件と手続があります。
NFTやステーブルコインも同じ規制に移りますか
改正法は現行の資金決済法上の暗号資産を引き継ぐ設計であり、金融庁はその定義に該当しないNFTやステーブルコインを今回の移行対象外と説明していますが、個別トークンの法的分類は機能と権利関係で判断されます。
登録業者なら投資損失を避けられますか
登録業者であっても価格変動や発行プロジェクトの失敗は起こり得るため、余裕資金の範囲、保管方法、取引条件を確認する必要があります。
参照した一次情報
- 参議院「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」
- 金融庁「国会提出法案等」
- 金融庁「改正法律案要綱」
- 金融庁「暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告の概要」
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書」
本稿は公開されている制度資料の解説であり、特定の取引に関する投資、法律、税務上の助言ではありません。
