生成AIをめぐる二つの訴訟は、同じ技術分野を扱いながら、問われている行為が異なります。
xAIとXがAppleおよびOpenAIを訴えた米国の事件では、OSとアプリ流通を通じた競争への影響が争われています。
日本経済新聞社と朝日新聞社がPerplexityを訴えた日本の事件では、報道記事の取得、保存、回答への利用が著作権などを侵害するかが争点です。
最終更新:2026年8月26日。以下では、当事者の主張と裁判所が確定した事実を区別しています。
この記事の結論
- 米国の事件は、AppleとOpenAIの連携が競争相手を不当に排除する仕組みなのか、それとも利用者に便益を与える非排他的な連携なのかが中心です。
- 日本の事件は、記事を取得する段階と、回答として記事の表現を提示する段階を分けて考える必要があります。
- どちらの訴訟も結論は確定していません。企業は勝敗予測に依存せず、流通経路、データの権利根拠、出力確認、ログ保存を点検するのが現実的です。
二つの訴訟を比較する
| 項目 | xAI/X対Apple/OpenAI | 日経/朝日対Perplexity |
|---|---|---|
| 法的な領域 | 米国の反トラスト法 | 日本の著作権法など |
| 原告が問題にする行為 | ChatGPTのOS統合やアプリ流通を通じた競争相手の排除 | 報道記事の無断取得、保存、回答への利用 |
| 判断の中心 | 市場の範囲、排除効果、連携の合理性 | 複製の有無、権利制限規定の適用、回答での表現利用 |
| 2026年8月時点 | 却下申立ては退けられ、証拠開示が進行 | 第1回口頭弁論でPerplexity側が争う姿勢を表明 |
xAIとXが争うアプリ流通の競争
原告の主張
xAIとXは2025年8月、米テキサス州北部地区連邦地裁にAppleとOpenAIを提訴しました。
原告は、AppleがChatGPTをiOSに統合した契約とApp Storeの運用が、生成AIチャットボットやスマートフォンをめぐる競争を妨げていると主張しています。
ここでいう反トラスト法は、市場での競争を不当に制限する合意や、独占力を排除行為によって維持する行為などを規制する米国法の総称です。
提訴された事実と原告の主張は確認できますが、Appleがランキングを操作したことや、両社が違法に共謀したことが裁判所に認定されたわけではありません。
判断を分ける三つの問い
- 関連市場をどこまでにするか:iOS上の生成AIへの入口を独立した市場として扱うのか、Webや他のOSを含む広い選択肢を考慮するのかで評価が変わります。
- 競争相手が排除されたか:OS統合やアプリの表示が、単に使いやすさを高めたのか、競争相手が利用者へ届く機会を実質的に狭めたのかが問われます。
- 連携を正当化する効果があるか:安全性や操作性の改善が確認できても、その効果と競争への不利益を同じものとして扱うことはできません。
AppleとOpenAIは却下を求めましたが、連邦地裁は2025年11月に申立てを退けました。
この判断は訴訟を審理対象として残したものであり、原告の主張が正しいと認定した判決ではありません。
2026年に入ってからも証拠開示をめぐる命令が出ており、少なくとも公開資料で確認できる範囲では本案の判断に至っていません。
Appleの生成AI戦略そのものは、関連記事「AppleのSiri AI、Gemini提携、ChatGPT連携の整理」で確認できます。
日経と朝日が争う記事利用の境界
原告の主張と現在の手続
日本経済新聞社と朝日新聞社は2025年8月、Perplexityを東京地方裁判所に提訴しました。
両社は、Perplexityが記事を無断で複製、保存し、利用者への回答に使ったとして、記事利用の差し止めなどと各22億円の損害賠償を求めています。
2026年5月の第1回口頭弁論では、Perplexity側が請求棄却を求め、争う姿勢を示したと報じられました。
したがって、「記事利用は侵害だった」と確定した段階ではなく、原告の主張と被告の反論を裁判所が審理している段階です。
取得、生成、表示を分けて考える
生成AIと著作権の関係は、サービス全体を一括して適法または違法と決めるのではなく、著作物が使われる場面ごとに整理します。
| 段階 | 起こり得る行為 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 取得と保存 | 記事データの収集、複製、キャッシュ | 利用目的、必要な範囲、権利者の利益を不当に害しないか |
| 回答の生成 | 記事の内容を参照した要約や回答 | 元記事の創作的な表現がどの程度含まれるか |
| 利用者への表示 | 回答、引用、出典リンクの提示 | 引用の条件を満たすか、出典表示だけで許諾の代わりになると誤解していないか |
現行の著作権法で、情報解析を含む非享受目的の利用に関係する規定は第30条の4です。
旧記事にあった「第47条の7」は、情報解析を定める現行規定ではないため、ここで訂正します。
第30条の4は無条件の許可ではなく、必要と認められる限度での利用であり、著作権者の利益を不当に害する場合は適用されません。
文化庁も、検索拡張生成などで元の著作物の創作的表現を回答として生成させる目的がある場合、同条が適用されないと考えられる旨を示しています。
複製権は著作権法第21条、公衆送信と送信可能化に関する権利は第23条に定められています。
回答が著作権を侵害するかは、元記事に依拠しているか、保護される表現が類似しているか、引用などの例外が成立するかを個別に確認する必要があります。
robots.txtと利用規約の位置付け
robots.txtはクローラーへの技術的な指示であり、無視したという一事だけで著作権侵害の結論が決まるわけではありません。
ただし、権利者が利用を制限する意思を示していたか、技術的な制限を回避したか、契約や不法行為の問題が生じるかを検討する際の事情になり得ます。
Perplexityのサービスを利用する際の確認事項は、関連記事「Perplexity Cometの機能、活用例、注意点」でも整理しています。
企業が今から確認できる実務項目
二つの訴訟から共通して読み取れるのは、生成AIの導入判断をツールの性能だけで終えられないことです。
- 利用者への到達経路:特定のOS、アプリストア、提携先に依存する範囲と代替経路を把握します。
- データの権利根拠:取得元、許諾、利用目的、保存期間、削除方法をデータの種類ごとに記録します。
- 回答の確認方法:原文の表現を過度に再現していないか、出典と回答内容が一致するかを点検します。
- ログの保存:取得時期、参照元、処理方法、出力を後から説明できる範囲で残します。
- 役割と相談先:開発、法務、編集、事業の各担当者が、公開停止や修正を誰の判断で行うか決めます。
社内ルールの作り方は「生成AI導入で最初に決めるべき運用ルール」で具体的に確認できます。
本稿は公開資料を基に争点を整理したもので、個別案件への法的助言ではありません。
参考資料
xAI/X対Apple/OpenAI
- 米連邦地裁に提出された訴状の写し
- 米連邦地裁事件の公開ドケット情報
- 2026年1月22日付の証拠開示に関する裁判所命令
- Reutersによる提訴時の報道
- Bloombergによる提訴時の報道
- CBS Newsによる反トラスト訴訟の報道
日経/朝日対Perplexity
- ITmedia NEWSによる第1回口頭弁論の報道
- The Japan Timesによる提訴時の報道
- Financial Timesによる提訴時の報道
- Reutersによる米国の関連訴訟の報道
- e-Gov法令検索「著作権法」
- 文化庁「AIと著作権について」
この記事に関連する株式会社greedenの取り組み
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