欧州アクセシビリティ法(EAA)は、EUで扱われる特定の製品と、EUの消費者に提供される特定のサービスに共通のアクセシビリティ要件を設ける指令です。
EU加盟国はEAAを国内法に取り込み、2025年6月28日からその措置を適用しています。
日本企業も、EU市場に対象製品を流通させる場合や、EUの消費者に対象サービスを提供する場合には関係します。
ただし、「EUと取引するすべての企業や、あらゆるソフトウェアが一律に対象」という制度ではありません。
最初に製品とサービスの種類、顧客、提供国、自社の役割を整理し、該当国の国内法で適用関係を確認する必要があります。
EAA対応で先に押さえたい結論
- 対象かどうかは企業の国籍だけでなく、製品またはサービスの種類、EU市場との関係、消費者向けかどうかで判断します。
- ECは消費者契約を結ぶためのWebサイトやモバイルサービスが中心です。B2Bサービスは、画面があるだけで自動的にECサービスの定義へ入るわけではありません。
- WCAGはWebやアプリを改善する有力な評価軸ですが、WCAGへの適合だけでEAA対応全体が完了するとは限りません。
- CEマーキングとEU適合宣言は対象製品の適合確認に関係します。サービスには、提供方法と継続的な適合を説明できる情報や手順が求められます。
- 制裁や執行の具体像は加盟国法で異なるため、販売国や提供国ごとの確認が必要です。
EAAの目的と法的な位置づけ
EAAは、正式には「製品およびサービスのアクセシビリティ要件に関する指令(EU)2019/882」です。
EAA指令の原文は、加盟国ごとに異なっていた要件を近づけ、対象となるアクセシブルな製品とサービスがEU域内で流通しやすくなることを目的にしています。
アクセシビリティとは、障害のある人が、ほかの人と同じように製品やサービスを利用できるよう、情報、操作、機能の障壁を減らす考え方です。
EAAはEUの「指令」であり、加盟国が国内法へ取り込んで運用します。
したがって、対象判定や制裁を調べるときはEAA本文だけで終わらせず、事業を行う加盟国の国内法、所管当局の案内、契約上の要求を確認します。
対象となる製品とサービス
EAAの対象は限定列挙されています。
日本企業が自社の事業を照合しやすいよう、主な範囲を製品とサービスに分けると次のようになります。
| 区分 | 主な対象 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 製品 | 消費者向け汎用コンピューターとOS、決済端末、ATMや券売機などのセルフサービス端末、電子通信や映像サービスに使う消費者向け端末、電子書籍リーダー | 2025年6月28日より後にEU市場へ投入した対象製品か、自社が製造者、輸入者、販売者のどの役割を担うか |
| サービス | 電子通信、映像メディアへのアクセス、旅客輸送の特定要素、消費者向け銀行、電子書籍と専用ソフトウェア、電子商取引 | EUの消費者に提供する対象サービスか、Webサイトやアプリを含む提供過程のどこに要件が及ぶか |
欧州委員会のEAA解説でも、コンピューター、スマートフォン、銀行、旅客輸送、電子書籍、電子商取引などが対象として整理されています。
日本企業が対象を判定する4つの質問
1. EU市場またはEUの消費者と接点があるか
製品ではEU市場への投入、サービスではEU市場での提供やEUの消費者への提供申し出が判断の出発点です。
日本に本社があることだけを理由に対象外とは判断できません。
2. 製品やサービスがEAAの対象カテゴリに入るか
ソフトウェアや電子機器という広い呼び名だけでは決まりません。
たとえば、電子商取引、消費者向け銀行、電子書籍の専用ソフトウェアは対象になり得ますが、一般的な業務用クラウドツールや教育ソフトウェアがすべて自動的に対象になるわけではありません。
3. 消費者向けか、事業者向けか
EAAの「電子商取引サービス」は、消費者契約を結ぶ目的で、Webサイトやモバイルサービスを通じて消費者の個別の求めに応じて提供されるサービスと定義されています。
このため、B2Cの購入経路は確認対象になりやすい一方、純粋なB2Bサービスを「画面があるから対象」と断定するのは適切ではありません。
同じサイトが消費者と事業者の双方に販売している場合は、少なくとも消費者向けの契約経路を切り分けて確認します。
4. 例外や経過措置を根拠とともに説明できるか
サービスを提供する零細企業には免除があります。
EAA上の零細企業は、従業員が10人未満で、年間売上高が200万ユーロ以下または年間貸借対照表総額が200万ユーロ以下の企業です。
一方、対象製品を扱う零細企業が同じ形で全面的に免除されるわけではありません。
製品やサービスの基本的な性質を根本から変える場合や、過度な負担になる場合にも例外がありますが、事業者による評価と記録が前提です。
経過措置やWebコンテンツの除外もあるため、詳細はEAAの免除規定と確認手続きも参照し、該当国の国内法と照合してください。
ソフトウェア開発企業が確認する範囲
ソフトウェア企業は、まず開発物が対象サービスそのものか、対象サービスの提供に使われるWebサイトやアプリか、対象製品のOSや専用ソフトウェアかを分類します。
オンラインバンキング、電子チケット、電子書籍、消費者向けECなどに組み込まれるソフトウェアは、利用者が目的を完了するまでの一連の操作を確認する必要があります。
画面単位の見た目だけでなく、登録、ログイン、本人確認、検索、申込み、支払い、エラーからの復帰までを一つの利用経路として試験します。
設計から運用までの役割分担は、Webアクセシビリティを発注、設計、実装、運用へ組み込む方法で確認できます。
EC事業者が優先して点検する操作
ECでは、商品を見つけて契約を完了するまでの経路が途中で途切れないことを確認します。
- 商品名、価格、選択肢、在庫や配送など、購入判断に必要な情報を読み取れるか
- 検索、絞り込み、並び替えの状態と結果件数が支援技術にも伝わるか
- カートへの追加、数量変更、削除をキーボードでも操作できるか
- 会員登録、ログイン、本人確認、決済のラベルと手順が理解できるか
- 入力エラーの場所、理由、修正方法が文字でも示されるか
- 利用規約や同意内容を、契約前に読み、戻って確認できるか
- 問い合わせ方法とサービスのアクセシビリティ情報に到達できるか
検索機能の具体的な設計は、検索、絞り込み、並び替えのアクセシビリティで詳しく解説しています。
電子機器メーカーに必要な確認
電子機器では、対象製品かどうかに加え、自社が製造者、EUへの輸入者、流通事業者のどれに当たるかで義務が変わります。
対象製品の製造者には、アクセシビリティ要件を反映した設計と製造、技術文書、適合性評価、EU適合宣言、CEマーキングが関係します。
輸入者と流通事業者にも、表示や必要書類、適合状況を確認し、不適合が疑われる製品をそのまま流通させない役割があります。
点検対象は本体の操作だけではありません。
情報と説明書、ユーザーインターフェース、支援技術との互換性、包装やサポートサービスなど、該当する要件を製品全体で確認します。
すべての電子機器にEAA対応やCEマーキング上の追加確認が必要だと一括りにせず、指令の製品カテゴリと販売先を先に照合してください。
WCAGとEAAは同じものではない
WCAGは、Webコンテンツを障害のある人が利用しやすくするための国際的なガイドラインです。
W3CのWCAG 2.2は、Webの要件を「知覚可能」「操作可能」「理解可能」「堅牢」の4原則で整理しています。
- 知覚可能
- 画像の代替テキストや動画の字幕など、情報を別の感覚でも受け取れるようにします。
- 操作可能
- キーボード操作や見えるフォーカスなど、特定の入力方法だけに依存させません。
- 理解可能
- 一貫した操作、明確なラベル、具体的なエラー説明によって次の行動を判断できるようにします。
- 堅牢
- スクリーンリーダーなどの支援技術が、要素の名前、役割、状態を解釈できるように実装します。
ただし、EAAはWebコンテンツに限らず、機器、説明書、サポート、適合情報、継続的な運用も扱います。
したがって、「WCAGのAAに適合すればEAA対応が完了する」とは限りません。
WebやアプリではWCAGを実装と試験の基準に使いながら、対象国の国内法、EAAの該当要件、適用される欧州規格や技術仕様を別に確認します。
規格は改訂されるため、要件定義書や契約書には名称だけでなく、採用する版と対象範囲を記録します。
対象判定から運用までの6ステップ
- 製品とサービスを棚卸しする
名称だけでなく、顧客、販売国、提供経路、契約の種類、自社の役割を一覧にします。 - 適用法と例外を確認する
EAAの対象カテゴリと照合し、該当する加盟国法、所管当局、経過措置、例外の条件を確認します。 - 利用者の主要な操作を特定する
登録、検索、購入、支払い、情報取得など、完了できなければサービスを利用できない操作から優先順位を付けます。 - 要件を設計と実装へ割り当てる
画面、コンテンツ、端末、説明書、サポートの各要件に、担当者と受入条件を設定します。 - 複数の方法で試験する
自動検査に加え、キーボード、画面拡大、スクリーンリーダーなどによる手動確認と、必要に応じた利用者評価を組み合わせます。 - 証拠と改善手順を残す
判定根拠、試験結果、未解決事項、例外評価、修正履歴を管理し、更新のたびに再確認します。
非対応リスクは加盟国ごとに確認する
EAAは加盟国に対し、違反に対する実効的で比例的かつ抑止力のある制裁と、是正措置を定めるよう求めています。
対象製品では市場監視、是正、流通の制限や回収につながる手続きがあり、対象サービスでも適合確認と苦情対応の仕組みが設けられます。
一方、罰金額や執行手続きがEU全域で一律に決まっているわけではありません。
元記事にあった「アプリ配信停止」「製品リコール」などを必ず起きる結果として想定せず、販売国や提供国の法令と当局情報に基づいてリスクを評価します。
日本企業が今から進めるべきこと
EAA対応の出発点は、Webサイトだけを急いで直すことではなく、自社のどの製品やサービスが、どの国で、どの立場から対象になり得るかを説明できる状態にすることです。
対象範囲が決まれば、利用者が目的を完了できない箇所を優先し、設計、実装、手動試験、運用記録を一つの改善サイクルとして回せます。
本記事は一般的な情報整理であり、個別案件の法的判断ではありません。
実際の販売や提供にあたっては、対象国の法令と所管当局の情報を確認し、必要に応じて現地の法務専門家へ相談してください。
参考資料
- EUR-Lex「Directive (EU) 2019/882」
- European Commission「European Accessibility Act (EAA)」
- W3C「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2」
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