専門用語をすべて消すと、必要な情報の精度まで失われることがあります。
Webアクセシビリティで求められるのは、用語を一律に避けることではなく、読者がその意味を確かめられるようにすることです。
JIS X 8341-3:2016の達成基準3.1.3「一般的ではない用語」は、専門用語や限定された意味で使う語句について、明確な定義を特定できる仕組みを用意する考え方を示しています。
この記事では、本文内の説明、言い換え、用語集、補助的な表示をどう使い分けるかを、制作と運用の流れに沿って解説します。
JIS X 8341-3とWCAGの関係
JIS X 8341-3:2016の規格本文は、WCAG 2.0と同じ内容になるよう整合された日本産業規格です。
そのため、この記事では両者を同じ名称として扱わず、JIS X 8341-3:2016の達成基準3.1.3を中心に説明します。
関連する達成基準も含めた位置づけは、JIS X 8341-3:2016の「読みやすさ」と6つの達成基準で確認できます。
一般的ではない用語の範囲
一般的ではない用語とは、専門知識がなければ理解しにくい語句や、特定の業界またはページ内で限定された意味を持つ表現です。
書き手や担当部署には日常語でも、初めてサービスを利用する読者には意味が通じない場合があります。
- 業界の専門用語:「エスクロー」「コールオプション」など、分野の知識を前提とする語句
- 技術用語:「レジリエンス」など、文脈によって説明が必要になる語句
- 限定された意味の一般語:日常とは異なる意味を、組織やページ内で割り当てている語句
判断の基準は、用語そのものの難しさだけではありません。
想定する読者が、前後の文脈だけで正しい意味を選べるかを確認します。
説明方法の選び方
| 方法 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 本文内で定義する | 用語の意味がページ内で一つに決まる | 最初に出る箇所へ短い説明を添える |
| 平易な表現へ言い換える | 専門用語を残さなくても意味が変わらない | 正確さを失う言い換えは避ける |
| 用語集や説明箇所へリンクする | 用語が多い、または説明が長い | リンク先で対象の定義をすぐ見つけられるようにする |
| ツールチップなどで補足する | 本文の説明に加えて補助情報を示したい | マウス操作だけに依存しない |
本文内で最初に定義する
一つのページで同じ意味を使い続ける用語は、最初に出る箇所で説明すると読み進めやすくなります。
用語と説明を離さず、括弧内に短く補う方法が使えます。
説明前:この契約ではエスクローを利用します。
説明後:この契約ではエスクロー(売買の当事者以外の第三者が代金や取引対象を管理する仕組み)を利用します。
説明が長くなる場合は、最初の文で要点だけを示し、詳細を次の段落または用語集へ分けます。
意味を保てる場合は言い換える
専門用語を残す必要がなければ、読者が判断に使える表現へ置き換えます。
たとえば「コールオプション」だけでは対象読者に伝わりにくい場合、「特定の価格で株式を購入する権利」と説明できます。
ただし、短くするために条件や対象まで削ると、元の意味から離れるおそれがあります。
正確さを保てない場合は、専門用語と説明を併記します。
用語が多い場合は用語集へつなぐ
専門用語が繰り返し登場するページでは、本文内の短い説明と用語集を組み合わせると、本文を長くしすぎずに定義を示せます。
リンクの文言は「こちら」ではなく、「エスクローの定義」のように、移動先で確認できる内容を示します。
同じ語を複数の意味で使う場合は、一つの定義へまとめず、それぞれの箇所から該当する意味へつなぎます。
略語には別の確認点があるため、略語をわかりやすく示す方法もあわせて確認してください。
ツールチップを説明の唯一の手段にしない
マウスを合わせたときだけ表示される説明は、キーボードやタッチ操作では見つけにくい場合があります。
短い定義は本文に置き、ツールチップやポップアップは補助として使うほうが、操作方法に左右されにくくなります。
補助表示を実装する場合は、キーボードフォーカスでも表示できるか、内容を閉じられるか、読み終える前に消えないかを確認します。
説明を必要とする読者
難解な用語への配慮は、専門分野に詳しくない読者だけを対象にしたものではありません。
言葉の意味を文脈から推測しにくい読者や、画面拡大によって一度に読める範囲が狭くなる読者にとっても、その場で確認できる定義が助けになります。
スクリーンリーダーを使う場合も、説明が本文または操作できるリンクとして提供されていれば、マウス操作を前提とせずに内容へ到達できます。
読み上げの基本は、スクリーンリーダーの仕組みと実装ポイントで解説しています。
制作と運用の進め方
- 候補を拾う:専門用語、社内用語、略語、意味を限定して使う一般語を洗い出します。
- 読者を想定する:その分野を初めて知る読者が、前後の文脈だけで意味を判断できるかを確認します。
- 説明方法を選ぶ:本文内の定義を優先し、必要に応じて言い換えや用語集を組み合わせます。
- 操作方法を変えて確認する:マウス、キーボード、タッチ操作で説明へ到達できるかを確かめます。
- 公開後も見直す:問い合わせや離脱につながる用語が見つかったら、説明の位置と表現を修正します。
公開前の確認項目
- 初めて出る専門用語に、その場で理解できる説明がある
- 同じ用語をページ内で同じ意味と表記で使っている
- 限定された意味で使う一般語に、対象範囲を示している
- 用語集へのリンクが、移動先の内容を表す文言になっている
- 説明をマウスオーバーだけに置いていない
- 補助表示をキーボードやタッチ操作でも確認できる
- 説明を加えても文の意味や業務上の条件が変わっていない
専門用語を残すときの判断
読みやすさは、専門用語の数だけでは決まりません。
その用語が必要な理由を確認し、読者が意味へ到達できる説明を適切な位置に置くことで、正確さと理解しやすさを両立できます。
まずは、主要なページで使っている専門用語を拾い、最初の一箇所に短い定義を加えるところから始めてください。
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