英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は、複数分野の運用技術を狙う攻撃が世界的に増え、英国を含む一部で限定的な業務上の混乱が生じたと警告しました。
運用技術(OT)とは、工場設備、エネルギー、交通、建物設備など、現実の機器や工程を監視し制御するシステムです。
NCSCの警告は、組織が「OTは社内に閉じているはず」と考えるだけでは足りず、外部から到達できる資産と接続経路を実測して減らす必要があることを示しています。
NCSCが確認した攻撃と公表情報の限界
NCSCが2026年8月27日に公表したアラートによると、複数の攻撃者が各国のOTを標的とし、一部で限定的な実社会上の混乱を引き起こしました。
NCSCは関係分野へ個別に働きかけたうえで、国全体の耐性を高めるために今回の警告を公開したと説明しています。
ただし、公表文は被害組織、攻撃手法、侵入経路、攻撃者の名称、被害規模を特定していません。
したがって、特定の国や集団へ攻撃を帰属させたり、特定の脆弱性が使われたと断定したりする根拠はありません。
確認できるのは、標的化の増加、限定的な混乱、インターネットに公開されたOTが影響を受け得るというNCSCの評価です。
意図しない外部公開が生まれる理由
NCSCは、設定ミス、過去から残る接続、管理されていない機器によって、担当者が把握していない外部公開が生じ得ると指摘しています。
保守会社向けの遠隔接続、古いルーター、閉鎖されなかった管理ポート、台帳にない無線回線も、OTを外部へつなぐ境界になり得ます。
NCSCのOT接続ガイダンスは、ネットワークの端にある資産が増えるほど攻撃対象領域が広がるため、機器の配置、接続方法、防御策を継続して評価するよう求めています。
公開されている機器を見つけるだけでなく、その接続が業務上必要か、管理画面まで外部から到達できるか、更新と監視が続いているかを一つずつ確認する作業が必要です。
組織が進める8つの防御策
1.OT資産と接続経路を台帳にする
機器名だけでなく、通信相手、外部接続、管理責任者、保守期限、業務上の重要度まで記録します。
NCSCのOT構成把握ガイダンスは、資産、通信経路、外部接続、第三者リスクを継続的に記録し、リスクに基づく判断へ使う原則を示しています。
2.OT機器のインターネット直接公開をやめる
PLCやHMIなどのOT機器へ外部から直接接続できる状態を解消し、必要な遠隔保守は分離した中継環境を経由させます。
外部からの接続を常時開けず、必要な時間と利用者に限ることで、攻撃者が試行できる時間を短くできます。
3.初期認証情報と共有パスワードを廃止する
管理画面や保守用プロトコルの初期認証情報を変更し、管理者ごとに固有のアカウントを割り当てます。
機器が対応している場合は多要素認証を有効にし、SSHなどではパスワードより公開鍵認証を優先します。
4.境界機器を更新し、管理経路を分離する
産業用ゲートウェイ、ファイアウォール、ルーター、遠隔接続装置をサポート対象の版に保ち、保守終了前に更新計画を立てます。
境界機器の管理は、インターネットへ接続しない分離済みの管理ネットワークからだけ行える構成にします。
5.安全性の低いプロトコルを隔離する
Telnet、SNMPv1、SNMPv2などを停止し、安全な代替へ移行します。
機器の制約で代替できない場合は、利用範囲を分離したネットワーク区画に限定し、接続元と通信内容を監視します。
6.OT、管理、業務ネットワークを分ける
役割と重要度に応じてネットワークを分割し、区画間の通信は業務に必要なものだけ許可します。
この分離は侵入を必ず防ぐ保証ではありませんが、攻撃者の横移動と障害の波及範囲を抑える働きがあります。
7.接続を記録し、平常時との差を監視する
OT内外の通信を記録し、PLCやHMIへ想定外の機器、経路、時間帯から接続する動きを検知します。
OTは通信パターンが比較的安定しているため、平常時の基準を作ると、設定ミスや不正な接続を見つけやすくなります。
8.隔離と復旧を実際に試す
機器設定、制御ロジック、重要な設計データを保全し、侵害された区画を切り離して信頼できるバックアップから戻す訓練を行います。
バックアップの存在確認だけでなく、復元に必要な担当者、手順、所要時間、業務の優先順位まで試して初めて復旧計画を評価できます。
最初の点検で確認したい項目
| 優先対象 | 確認事項 | 見つかった場合の初動 |
|---|---|---|
| 公開資産 | OT機器や管理画面へインターネットから到達できないか | 直接公開を止め、安全を確認した中継経路へ切り替える |
| 認証 | 初期認証情報、共有アカウント、単要素認証が残っていないか | 固有アカウントへ移行し、対応機器では多要素認証を有効にする |
| 境界機器 | 更新漏れや保守終了済みのルーター、VPN、ゲートウェイがないか | 更新し、更新できない機器は分離と接続制限を強める |
| 通信 | 想定外の接続元、宛先、時間帯、設定変更がないか | ログを保全し、影響範囲を確認して必要な区画を隔離する |
| 復旧 | 設定と制御ロジックを信頼できる状態へ戻せるか | 復元試験を行い、失敗した手順と不足するデータを直す |
OTを持たない組織にも当てはまる警告
NCSCは、OT以外でもインターネット公開システムやネットワーク境界機器を狙う破壊的な活動が続いていると説明しています。
企業のWebサーバー、VPN、ルーター、クラウド上の管理画面も、台帳から漏れ、更新されず、外部へ公開されたままなら同じ問題を抱えます。
公開資産の一覧、データの流れ、管理責任、更新期限を結び付け、不要な接続を閉じる作業は、業種を問わず優先できます。
編集部の見解
今回の警告で注目したいのは、攻撃者の名称よりも、組織が把握していない接続が現実の業務を止め得る点です。
古い設備を一度に置き換えられない組織でも、資産を把握し、直接公開を減らし、境界を分け、復旧を試す順序なら段階的に進められます。
安全対策を設備更新だけの課題にせず、保守契約、変更管理、事業継続を含む日常の運用へ組み込むことが、長く使うOTの信頼性も高めます。
参考情報
- 英国NCSC:インターネット公開システムと境界機器を狙う破壊的サイバー活動への警告
- 英国NCSC:OT構成を把握し維持するためのガイダンス
- 英国NCSC:OT接続の外部公開を抑える原則
- 株式会社greeden:システム開発と保守改善の支援内容
この記事に関連する株式会社greedenの取り組み
見えていない接続や古い機器は、保守の抜けを生みます。株式会社greedenは、Webシステム開発で要件定義からクラウド基盤、リリース後の保守改善まで支援し、運用実態に合う仕組みづくりに伴走します。

