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apitegromab「Isembyld」、EU承認申請を取り下げ SMA第3相結果と未承認の理由を整理

筋線維と抗体分子、製造品質の確認工程を抽象的に表した医薬品規制の記事イラスト

脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬候補apitegromab(製品名Isembyld)は、欧州連合(EU)で承認された薬ではありません。

開発企業は2026年8月13日、販売承認申請を取り下げました。

欧州医薬品庁(EMA)が8月21日に公表した資料では、申請薬の製造所についてEUの医薬品製造管理および品質管理基準(GMP)への適合を期限内に確認できなかったことが理由とされています。

一方、販売承認申請の根拠となった第3相試験は、既存治療を受ける一部の患者で運動機能スコアの改善を示しました。

臨床試験の結果が前向きでも、品質を含む審査要件が満たされなければ販売承認には至らないという、医薬品評価の二つの側面を分けて理解する必要があります。

EMAが公表した規制状況

EMAのIsembyld公開資料によると、申請者Scholar Rock Netherlands B.V.は、5q脊髄性筋萎縮症に対する販売承認申請を2026年8月13日に取り下げました。

取り下げは「EMAが承認した」「欧州委員会が販売を許可した」という意味ではなく、正式な販売承認の決定に至る前に申請者が手続きを終了したことを指します。

確認項目 公表された内容
規制段階 EU販売承認申請の取り下げ
取り下げ日 2026年8月13日
EMAの公表日 2026年8月21日
審査時の暫定見解 当時の資料では承認できないとの見解
未解決事項 製造所のEU GMP適合を期限内に確認できなかったこと
現在の位置づけ EUで未承認

EMAは申請資料を評価し、申請者への質問と回答を検討した後も未解決事項が残ったと説明しています。

EMAの暫定見解は、製造所のEU GMP適合を申請者が期限内に示せず、承認を支えるデータが十分ではないというものでした。

したがって、今回の公表を「第3相試験で薬効が否定されたための不承認」と言い換えるのは正確ではありません。

ただし、製造品質は省略できる付帯条件ではなく、同じ品質の医薬品を安定して供給できるかを審査するための要件です。

apitegromabが目指した追加治療

apitegromabは、筋肉の成長を抑えるミオスタチンが活性化する前の形に結合するモノクローナル抗体です。

既存のSMN2標的治療とは異なり、筋肉へ作用して運動機能を補う追加療法として開発されました。

EUで申請された対象は、単独で歩けない2歳以上の5q SMA患者で、すでにnusinersenまたはrisdiplamを使用している人でした。

静脈内への点滴投与を想定していましたが、申請が取り下げられたため、EUで承認された用法や用量として案内できる段階にはありません。

SAPPHIRE第3相試験の設計

ClinicalTrials.govの試験登録NCT05156320The Lancet Neurologyに掲載された査読論文では、試験の対象、比較方法、評価項目が公開されています。

試験は無作為化、二重盲検、プラセボ対照の第3相試験で、欧米9カ国の48施設が参加しました。

対象は、遺伝学的に確認された非歩行性の2型または3型SMAを有する2歳から21歳の188人です。

参加者はnusinersenを10カ月以上、またはrisdiplamを6カ月以上使用しており、apitegromabかプラセボを既存治療へ追加しました。

2歳から12歳では、apitegromab 20mg/kg群、10mg/kg群、プラセボ群へ1対1対1で割り付け、4週間ごとに12カ月投与しました。

13歳から21歳は20mg/kg群とプラセボ群へ2対1で割り付けられましたが、主要評価の中心は2歳から12歳の集団です。

主要評価項目は、運動機能を0点から66点で評価するHammersmith Functional Motor Scale-Expanded(HFMSE)の12カ月後の変化でした。

主要評価項目が示した効果

12カ月後のHFMSE apitegromab プラセボ 群間差
10mg/kgと20mg/kgの統合解析 最小二乗平均0.6点 最小二乗平均マイナス1.2点 1.8点(95%信頼区間0.30~3.32、p=0.019)
20mg/kg単独解析 最小二乗平均0.2点 最小二乗平均マイナス1.2点 1.4点(95%信頼区間マイナス0.34~3.13、p=0.11)

事前に定められた二用量の統合解析では、apitegromab群とプラセボ群の差は1.8点で、統計学的に有意でした。

プラセボ群の平均が1.2点低下したのに対し、統合したapitegromab群は平均0.6点上昇しており、既存治療への追加で運動機能を補える可能性を示しています。

しかし、20mg/kg群だけを比べた差は95%信頼区間がゼロをまたぎ、統計学的有意差に達しませんでした。

統合解析の結果だけから、すべての用量や年齢層で同じ効果が確定したとは判断できません。

安全性とエビデンスの限界

安全性解析では、apitegromabを投与された128人とプラセボを投与された60人で、有害事象の発生率と重症度はおおむね同程度でした。

主な有害事象は、発熱が26%対28%、鼻咽頭炎が25%対23%、せきが23%対20%、嘔吐が23%対17%、上気道感染が22%対30%、頭痛が21%対20%でした。

査読論文では、有害事象を理由に投与を中止した参加者はいませんでした。

これは12カ月の試験で観察された安全性であり、より長期の使用、まれな副作用、対象外の患者における安全性を保証するものではありません。

試験は開発企業Scholar Rockの資金提供を受け、著者の一部には同社の従業員や株主が含まれます。

IsembyldにはEUで承認された最終製品情報がないため、承認薬としての禁忌、正式な用法や用量、リスク管理策は確立していません。

「試験でプラセボと同程度の有害事象だった」ことを「誰にでも安全に使える」と読み替えることはできません。

患者と家族が確認したいこと

EMAによると、申請取り下げによって、apitegromabを使用する臨床試験やコンパッショネートユースの参加者に直ちに生じる影響はないと企業から報告されています。

該当する参加者は投与や通院を自己判断で中断せず、担当する臨床試験医に確認する必要があります。

一般の患者も、この記事を根拠に治療を始めたり、やめたり、変更したりせず、個別の選択は主治医または薬剤師へ相談してください。

筆者の見通し

筆者は、既存のSMN2標的治療に筋肉側から働く治療を組み合わせる発想と、第3相試験で得られた有効性シグナルには前向きな研究価値があると考えます。

運動機能の残る課題へ異なる作用点から取り組むことは、SMA治療の選択肢を広げる可能性があります。

一方、その可能性を患者へ届けるには、臨床効果だけでなく、製造所のGMP適合、製品の一貫性、長期安全性を規制当局が確認できる資料が必要です。

申請の取り下げ後に再申請が行われるかは、公表されたEMA資料だけでは確定できません。

よくある質問

IsembyldはEUで承認されましたか

承認されていません。

販売承認申請は審査中に取り下げられ、EMAは当時の暫定見解として承認できない状態だったと説明しています。

第3相試験が主要評価項目を達成したのに、なぜ承認されなかったのですか

承認審査は臨床試験の有効性だけで決まらず、安全性、製造品質、製品の一貫性なども対象になります。

今回の未解決事項は製造所のEU GMP適合であり、申請者が期限内に確認を示せず申請を取り下げました。

参照した一次情報と査読論文

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