日本の障害者差別解消法とEUアクセシビリティ法(EAA)は、どちらも障害のある人がサービスを利用するときの障壁を減らす制度ですが、同じ技術基準を一律に課す法律ではありません。
日本法は、個別の場面で求められる合理的配慮を中心に据えています。
EAAは、EU市場で提供される一定の製品と消費者向けサービスに、アクセシビリティ要件を課します。
違いを理解せず「WebサイトをWCAGに合わせれば対応完了」と考えると、対象判定や利用者との対話、継続的な運用が抜け落ちます。
日本法とEAAの違い
| 確認項目 | 日本の障害者差別解消法 | EUアクセシビリティ法(EAA) |
|---|---|---|
| 制度の中心 | 障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止と、個別の場面に応じた合理的配慮 | 対象となる製品とサービスに対するアクセシビリティ要件 |
| 主な対象 | 企業、団体、店舗、個人事業主などの事業者。雇用分野は別法で扱う | 一般消費者向けコンピューター、スマートフォン関連機器、電子書籍リーダー、電子商取引、銀行、旅客運送の一部など、指令が列挙する製品とサービス |
| Webとの関係 | デジタルな手続きや情報提供が社会的障壁になる場面では、合理的配慮や環境整備の検討対象になる | 電子商取引など、対象サービスを提供するWebサイトやモバイルアプリに要件が及ぶ |
| 適用判断 | 申出の内容、場面、事業への影響、過重な負担かどうかを踏まえて個別に検討する | 製品やサービスの種類、消費者向け取引、提供市場、各加盟国の国内法を確認する |
| 執行 | 特に必要な場合、主務大臣等は報告徴収、助言、指導、勧告を行える | 加盟国が監視と執行を担い、具体的な手続きや制裁は国内法によって異なる |
日本の合理的配慮義務
日本では2024年4月1日、改正障害者差別解消法が施行され、事業者による合理的配慮の提供が努力義務から法的義務に変わりました。
合理的配慮とは、障害のある人から社会的障壁を取り除くための対応を求められたときに、負担が重すぎない範囲で必要かつ合理的な対応を検討し、提供することです。
社会的障壁は、障害そのものだけを指しません。
利用できない設備、手続き、慣行、情報の示し方などが、参加や利用を妨げる状態も含みます。
Webサービスであれば、スクリーンリーダーでは入力できない申込フォームがあるときに別の申込方法を案内することや、画像だけで示した案内をテキストでも提供することが検討例になります。
対応内容は障害特性や利用場面によって変わるため、申出を受けた側が一方的に方法を決めるのではなく、実現できる手段を対話で探ります。
合理的配慮と環境整備は分けて考える
個別の申出に応じる合理的配慮に対し、サイト全体のキーボード操作、見出し構造、代替テキスト、フォームのラベルなどをあらかじめ改善する取組は、継続的な環境整備に当たります。
したがって、改正法を「すべての民間Webサイトに同じ技術基準への適合を直接義務付けた法律」と説明するのは正確ではありません。
一方で、利用者が困るたびに個別対応だけでしのぐのも十分ではなく、繰り返し起きる障壁はサイトや運用の改善へ反映する必要があります。
合理的配慮と事前改善の関係は、関連記事「民間企業のWebアクセシビリティ対応」でも詳しく整理しています。
行政上の仕組み
同法では、特に必要があると認めるとき、主務大臣等が事業者に報告を求め、助言、指導、勧告を行えると定めています。
具体的な対応では、事業分野を所管する省庁の対応指針も確認します。
EAAの対象範囲
EUアクセシビリティ法(EAA)は、Directive (EU) 2019/882の通称です。
加盟国は同指令を国内法へ取り込み、対象となる製品は2025年6月28日より後にEU市場へ投入されるもの、対象サービスは同日より後に消費者へ提供されるものが原則として適用対象になりました。
EAAが対象にするのは「すべての製品とサービス」ではありません。
主な対象は次のとおりです。
- 一般消費者向けコンピューターとそのOS
- 支払端末、ATM、券売機、チェックイン機などのセルフサービス端末
- 電子通信や視聴覚メディアサービスに使う一定の消費者向け端末
- 電子書籍リーダー
- 電子通信、消費者向け銀行、電子書籍、電子商取引の各サービス
- 航空、バス、鉄道、水上旅客運送サービスのうち、指令が定めるWebサイト、アプリ、電子チケット、情報提供など
このうち電子商取引サービスは、Webサイトやモバイルサービスを通じ、消費者契約の締結を目的として提供されるサービスを指します。
日本企業でも、EUの消費者へ対象サービスを提供する場合は無関係とは限りません。
ただし、実際の適用は取引形態、提供地域、対象サービス、加盟国の国内法によって判断する必要があります。
適用対象と運用の確認は、関連記事「EAA適用開始後の対象確認と継続運用」も参照してください。
零細企業の免除はサービスに限られる
EAA上の零細企業は、従業員が10人未満で、年間売上高または年間貸借対照表総額が200万ユーロ以下の企業です。
この条件に当てはまる零細企業が、EAAの対象サービスを提供する場合は、同指令のアクセシビリティ要件と関連義務が免除されます。
しかし、対象製品を扱う零細企業まで一律に免除されるわけではありません。
企業規模だけで結論を出さず、製品とサービスを分けて確認します。
EAAとWCAGの関係
WCAGは、Webコンテンツを知覚でき、操作でき、理解でき、堅牢にするための国際的なガイドラインです。
EAAは機能的なアクセシビリティ要件を定めていますが、条文を「すべてのWebサイトにWCAG 2.1のレベルAA準拠を直接義務付けるもの」と置き換えることはできません。
実務では、適用される国内法や技術標準との関係を確認したうえで、WCAGを設計と検証の基準として使います。
W3Cは現在、将来の適用可能性を高めるためWCAG 2.2の利用を勧めています。
ただし、レベルAAAをサイト全体の一律目標にすることは推奨されていません。
まず適用される法的要件を確かめ、利用者への影響が大きい障壁から改善し、必要な適合レベルと対象範囲を明文化します。
基準を開発工程へ落とし込む方法は、「Webアクセシビリティを発注、設計、実装、運用に組み込むチェックポイント」で解説しています。
事業者が進める6つの確認
- 対象を判定する:提供地域、顧客、製品、サービス、契約までの導線を一覧にし、日本法とEAAのどこに関係するかを切り分けます。
- 利用者の困りごとを把握する:問い合わせや申出の受付方法を明確にし、すぐに必要な代替手段と恒久的な改善を分けます。
- 主要な操作を検証する:情報閲覧、検索、会員登録、購入、決済、問い合わせなど、サービスの目的に直結する操作を優先します。
- 自動確認と手動確認を組み合わせる:自動ツールだけに頼らず、キーボード操作、フォーカス順序、読み上げ、拡大、エラー表示を人が確かめます。
- 改善内容を記録する:判断した対象範囲、採用した基準、未解決の課題、代替手段、担当者、期限を残します。
- 公開後も見直す:機能追加やコンテンツ更新のたびに確認し、利用者から寄せられた問題を次の改修へ反映します。
最初に確認したいWeb項目
- 画像に内容や目的に合う代替テキストがあるか
- マウスを使わず、キーボードだけで主要な操作を完了できるか
- フォーカス位置が見え、操作順序が内容の順序と一致しているか
- 文字と背景のコントラストが不足していないか
- フォームの入力欄にラベルがあり、エラーの場所と直し方が伝わるか
- 見出しが内容の階層を表し、リンク名だけで移動先を判断できるか
- 動画や音声に必要な字幕、書き起こし、代替説明があるか
- 利用できないときの問い合わせ方法や代替手段が見つかるか
公式資料
- 内閣府「改正障害者差別解消法が施行されました」
- 内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
- 内閣府「事業分野における対応指針」
- EUR-Lex「Directive (EU) 2019/882」
- European Commission「European Accessibility Act」
- W3C「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2」
法的な適用範囲や義務は事業内容と提供国によって変わるため、個別案件では所管官庁、各国当局、法務の専門家へ確認してください。
適用確認から継続改善へ
日本法への対応では、個別の申出に応じる合理的配慮と、障壁を生みにくくする環境整備を分けて計画します。
EAAへの対応では、自社の製品やサービスが対象かを判定し、関係する加盟国の国内法と技術要件を確認します。
そのうえで、WCAGを実装と検証に活用し、主要な利用経路を自動確認と手動確認で継続的に見直すことが、説明可能なアクセシビリティ対応につながります。
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