視覚障害の見え方は、単に「見える」か「見えない」かの二つに分けられません。
見える範囲が狭い、視野の中心が見えにくい、全体がかすむなど、困り方は人や場面によって異なります。
ゴーグルやデジタルフィルター、VRを使った疑似体験は、その違いに気づくきっかけになります。
ただし、再現できるのは見え方の一部であり、特定の人の視界や生活上の困難をそのまま再現するものではありません。
疑似体験の前に知っておきたい見え方
ロービジョンとは、何らかの視覚障害により、「見えにくい」「まぶしい」「見える範囲が狭い」といった日常生活上の不自由がある状態を指します。
国立障害者リハビリテーションセンターのロービジョン訓練の案内でも、見えにくさには複数の現れ方があると説明されています。
- 視野狭窄:見える範囲が狭くなり、周囲の情報を一度に捉えにくい状態です。
- 中心暗点:見ようとする範囲の中心が見えにくく、文字や顔などを捉えにくい状態です。
- コントラスト低下:明るさや色の差を見分けにくく、文字や物の輪郭が判別しづらい状態です。
同じ名称の見え方でも、程度や困る場面は一様ではありません。
疑似体験では「この見え方なら全員が同じように困る」と決めつけず、体験で気づいた障壁を具体的な確認につなげます。
疑似体験ツールの種類と向いている用途
| 種類 | 体験できること | 向いている場面 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| ゴーグル、メガネ型キット | 視野やコントラストを物理的なシートやレンズで制限する | 紙面の確認、授業、少人数の研修 | 再現パターンが固定されやすく、装着したままの移動には安全管理が必要 |
| デジタルフィルター | 写真や映像に見え方を反映し、画面上で比較する | Web画面や資料の確認、オンライン研修 | 画面上の変化だけで生活全体の困難を判断しない |
| Webツール、アプリ | 複数の見え方を切り替え、同じ場面を比較する | 短時間の導入、個人学習 | 提供元、対応環境、再現方法を利用前に確認する |
| VR、HMD | 周囲を見回す動作を含め、空間内で見え方の変化を体験する | 研究、専門的な研修 | 機材の準備に加え、転倒や体調変化を防ぐ運営が必要 |
確認できる代表的なツールと研究例
ロービジョン体験キット PLAYWORKSモデル
ロービジョン体験キット PLAYWORKSモデルは、組み立て式のメガネでコントラスト低下、視野狭窄、中心暗点の三つを疑似体験する教材です。
紙の資料やWeb画面を見比べる課題に使うと、文字の大きさだけでは解消できない読みづらさにも目を向けられます。
VISIONGRAM
VISIONGRAMは、視力や視野などの検査データをもとに、ドットの大きさや密度を変えたビジュアルフィルターを生成する仕組みです。
固定された一種類のフィルターを全員に当てはめるのではなく、人によって見え方が異なることを共有する用途に向いています。
VRを使った研究例
東京大学高齢社会総合研究機構が公開した研究資料には、HMD内で視野障害などをシミュレーションする研究例が示されています。
研究用の仕組みと一般に利用できる製品は同じではないため、導入時には提供状況と利用条件の確認が必要です。
疑似体験を研修で使う手順
- 目的を一つに絞る:資料を読む、Web画面を操作する、教室内の表示を探すなど、確認する行動を決めます。
- 体験の限界を共有する:見え方の一部を簡略化したものであり、当事者の経験そのものではないと参加者に伝えます。
- 安全な課題を短時間で行う:着席して文字や画面を確認する課題から始め、階段や屋外での単独歩行は避けます。
- 困った理由を記録する:「読めなかった」で終えず、文字と背景の差、情報の位置、操作方法など、妨げになった要素を記録します。
- 改善して再確認する:配色や文字、見出し、操作方法を直し、同じ課題で変化を確かめます。
兵庫県立夢前高等学校では、特殊ゴーグルを使った視覚障害者疑似体験を含む授業が実施されました。
教育や社内研修で扱う場合も、装着した感想だけで終えず、どの配慮を日常の行動へ移すかまで話し合うと目的が明確になります。
体験をWebアクセシビリティの改善へつなげる
疑似体験は、問題を見つける入口です。
Webサイトを改善する際は、文字と背景の見分けやすさ、拡大時の表示、見出しの順序、リンクの名称、キーボードでの操作などを個別に確認します。
見えにくさに配慮した画面設計は、ロービジョンに配慮したWebデザインの基本で、文字、配色、ズーム、操作性に分けて確認できます。
画面の構造を整える方法は、視覚障害者にも伝わる見出しとフォームラベルの設計も参考になります。
シミュレーターだけで「使いやすい」と判断することはできません。
可能な範囲で視覚障害のある利用者の意見を聞き、実際の操作確認と組み合わせることで、体験から得た気づきを具体的な改善へ移せます。
体験の目的は困難の再現ではなく改善の発見
疑似体験ツールは、見え方の違いと情報設計の課題に気づくための教材です。
ツールの再現を当事者の経験そのものと受け取らず、体験後に観察した障壁を記録し、表示や操作を直して確かめるところまでを一つの流れにします。
この記事に関連する株式会社greedenの取り組み
疑似体験で得た気づきを実際の改善へ移すには、文字の見やすさや操作のしやすさを継続して点検する必要があります。株式会社greedenは、Webアクセシビリティの確認とサイト改善を支援しています。

