拡張音声解説とは、通常の音声解説を入れる時間が足りないときに、映像と音声を一時停止して詳しい説明を流し、その後に本編を再開する方法です。
WCAG 2.2の達成基準「1.2.7 拡張音声解説(事前録画)」は、この方法を必要とする事前録画の動画について定めています。
対象となる条件を見極めず、動画に説明用のテキストトラックを追加するだけでは、達成基準を満たしたとは判断できません。
この記事では、対象の判断から制作、公開前の確認までを順に整理します。
達成基準1.2.7が求めること
達成基準1.2.7の対象は、主な音声の合間だけでは映像の意味を伝える音声解説を収められない、事前録画の同期メディアです。
適合レベルはAAAです。
- 事前録画:ライブ配信ではなく、あらかじめ収録または制作されたコンテンツです。
- 同期メディア:映像と音声が時間に沿って組み合わされたコンテンツです。
- 前景音:会話やナレーションなど、内容を理解するうえで中心となる音声です。
- 音声解説:動作、人物、場面の変化、画面内の文字など、主音声だけでは伝わらない視覚情報を音声で補う説明です。
映像の意味が主音声だけですでに伝わる場合や、会話の合間に通常の音声解説を十分に入れられる場合まで、映像を延長する必要はありません。
最初に「何を説明しなければ内容が欠けるか」と「その説明を既存の間に収められるか」を確認します。
通常の音声解説との違い
達成基準1.2.5の通常の音声解説は、会話や重要な音を妨げない範囲で、既存の間に説明を加えます。
拡張音声解説は、その時間だけでは必要な説明を収められない場合に使います。
| 比較項目 | 通常の音声解説 | 拡張音声解説 |
|---|---|---|
| 説明を入れる位置 | 会話や主な音声の合間 | 映像と音声を止めて確保した時間 |
| 本編の再生 | 原則として続ける | 説明中は一時停止し、終了後に再開する |
| 向いている場面 | 短い説明で重要な視覚情報を伝えられる場面 | 画面内の文字、動作、場面の変化などを詳しく説明する必要がある場面 |
対象かどうかを判断する手順
- 音声だけで内容を確認する
画面を見なければ分からない動作、人物、場面の変化、文字情報を洗い出します。 - 通常の音声解説を検討する
会話やナレーションの合間に、必要な説明を自然に収められるか確認します。 - 説明時間が不足する場面を特定する
短くしすぎると映像の意味が欠ける場合は、その場面を拡張音声解説の候補にします。
たとえば、「春の風景」という画面内の文字に続いて桜の木々が映る場面を考えます。
主音声の合間に「満開の桜」と伝えれば足りるなら通常の音声解説で対応できますが、文字、場所、人物の動作を続けて説明しなければ場面の意味が伝わらず、その時間もない場合は拡張音声解説を検討します。
拡張音声解説の提供方法
拡張音声解説付きの別動画を用意する
分かりやすい方法は、必要な箇所で本編を止め、音声解説を流してから再開する別バージョンを制作することです。
通常版と拡張音声解説版を区別できる名前で案内し、利用者が選べるようにします。
<p>拡張音声解説付きの動画です。</p>
<video controls preload="metadata">
<source src="extended-description-version.mp4" type="video/mp4">
このブラウザでは動画を再生できません。
</video>
このHTMLは、制作済みの拡張音声解説版をページに配置する例です。
HTMLだけで映像の一時停止や音声解説が作られるわけではないため、動画ファイル側に停止時間と説明音声を組み込んでおきます。
切り替え可能な動画プレイヤーを使う
もう一つは、利用者が拡張音声解説を有効にすると、指定した位置でプレイヤーが本編を止め、説明音声の終了後に再開する方法です。
実装時は、説明のオンとオフ、現在の状態、一時停止と再開が、マウス以外の操作でも分かるようにします。
元の動画に字幕や再生コントロールがある場合は、拡張音声解説版でもそれらを利用できる状態を保ちます。
動画掲載全体の確認項目は、アクセシブルな動画掲載のポイントでも確認できます。
説明トラックだけで判断しない
<track kind="descriptions">は、説明のタイミングや内容を関連付けるために利用できます。
ただし、テキストを登録しただけでは、映像の一時停止と音声による追加説明が実現するとは限りません。
採用するプレイヤーと利用環境で、説明が実際に音声として提供され、必要な場面で本編が止まり、説明後に正しい位置から再開することを確認します。
制作と確認の進め方
- 重要な視覚情報を整理する
動作、人物、表情、場面の変化、画面内の文字から、内容理解に必要なものを選びます。 - 説明原稿を作る
見た目をすべて読み上げるのではなく、主音声と合わせて場面の意味が伝わる情報を、時間の流れに沿って書きます。 - 通常の音声解説で収まるか試す
既存の間に自然に入れられる説明と、停止時間が必要な説明を分けます。 - 拡張版またはプレイヤーを制作する
停止、説明、再開の境目で言葉や動作が欠けないように調整します。 - 公開環境で操作を確認する
音声の聞き取りやすさに加え、選択方法、キーボード操作、再生位置、字幕なども確認します。
公開前のチェックリスト
- 主音声だけでは伝わらない重要な視覚情報を特定したか。
- 通常の音声解説では時間が足りない場面に絞ったか。
- 説明中に映像と主音声が止まり、終了後に正しい位置から再開するか。
- 通常版と拡張音声解説版の違いが、リンク名や操作名から分かるか。
- キーボードだけでも選択、再生、一時停止、再開を操作できるか。
- 字幕など、元の動画にあったアクセシビリティ機能を拡張版でも使えるか。
- 実際の公開ページと想定する利用環境で再生を確認したか。
拡張音声解説が支える理解
拡張音声解説は、会話が途切れない動画や、画面内の情報が短時間で変化する動画でも、視覚に頼らず内容を追うための時間を作ります。
すべての動画を機械的に長くするのではなく、通常の音声解説では意味を伝えきれない場面を見極めて使う方法です。
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