ウェブアクセシビリティとは、障害の有無や利用環境にかかわらず、ウェブ上の情報やサービスを利用できる状態に整える考え方と実践です。
サイトの情報を読めない、注文を完了できない、割引や予約を利用できないといった障壁は、使いにくさにとどまらず、サービスへのアクセスそのものを妨げます。
米国では、こうした障壁が障害を理由とする差別に当たるかどうかを争った訴訟があります。
ただし、裁判例の結論は管轄、サイトの機能、実店舗との関係、手続段階によって変わるため、一つの判断をすべてのウェブサイトに当てはまる一般則として読むことはできません。
確認しておきたい点:本記事は、原文で扱われていた米国の二つの事例を理解するための一般的な解説です。
日本を含む個別案件の法的判断については、適用される法令と最新の公的情報を確認し、必要に応じて専門家へ相談してください。
裁判を読む前に知っておきたい用語
- ADA(Americans with Disabilities Act):米国で障害を理由とする差別を禁じる法律です。
州政府などの公的機関と、一般に開かれた事業者のサービスでは適用される規定が異なり、ウェブサイトへの適用も事案ごとに確認する必要があります。 - スクリーンリーダー:画面上の文字や見出し、リンク、入力項目などを音声または点字で伝える支援技術です。
仕組みと制作上の配慮は、スクリーンリーダーの仕組みと実装ポイントで詳しく解説しています。 - WCAG(Web Content Accessibility Guidelines):ウェブコンテンツを利用しやすくするための技術的な指針です。
WCAGと各地域の法令は同じものではないため、技術検証と法的確認を分けて行います。
公開後の試験や改善については、WCAGを使った継続的なアクセシビリティ運用も参考になります。
二つの米国訴訟で争われたこと
| 事例 | 原告が訴えた障壁 | 裁判手続を読む際の注意点 |
|---|---|---|
| Winn-Dixie | ウェブサイトをスクリーンリーダーで利用できず、店舗のサービスや割引情報へアクセスしにくいと主張しました。 | 2017年の第一審だけを事件の最終結論や米国全体の一般則として扱うことはできません。 |
| Domino’s Pizza | ウェブサイトとモバイルアプリをスクリーンリーダーで利用できず、オンライン注文を完了できないと主張しました。 | 米国最高裁判所は上告申立てを受理しておらず、最高裁自身が実体面を判断した事例ではありません。 |
Winn-Dixieをめぐる判断
原文が取り上げた2017年の第一審では、視覚障害のある原告が、スーパーマーケットのウェブサイトをスクリーンリーダーで利用できないと訴えました。
裁判所はADA違反を認め、サイトの改善を命じました。
しかし、この第一審判決を事件の確定した一般則として紹介するのは正確ではありません。
その後、控訴手続で示された意見と基礎となる判決は取り消され、事件は「訴えの利益」が失われたとして終了しました。
訴えの利益が失われるとは、状況の変化などによって裁判所がその時点で解決すべき争いがなくなり、本案の判断を続けられなくなることです。
この終了理由から、あらゆるウェブサイトがADA上の「公共の場」に当たるという結論を導くことはできません。
Domino’s Pizzaをめぐる判断
Domino’s Pizzaの事例では、視覚障害のある原告が、ウェブサイトとモバイルアプリからピザを注文できないとして提訴しました。
控訴裁判所は、実店舗で提供される商品やサービスとウェブサイト、アプリとの結び付きを踏まえ、訴えを退けた第一審の判断を取り消して審理を差し戻しました。
Domino’s Pizzaは米国最高裁判所に上告を求めましたが、申立ては受理されませんでした。
上告申立ての不受理は、最高裁が下級審の結論や理由を実体面で承認した判決ではありません。
したがって、「最高裁がウェブサイトとアプリの義務を確定した」と説明するのは避ける必要があります。
裁判事例から読み取れる実務上の課題
二つの事例に共通するのは、ウェブ上の障壁が実店舗の商品やサービスの利用に影響したと原告が主張した点です。
企業はページが表示されるかどうかだけでなく、利用者が目的の手続きを最後まで完了できるかを確認する必要があります。
一方で、裁判例は「WCAGの検査結果だけで法的責任が決まる」ことを意味しません。
法務担当者は適用法令、管轄、サービスの性質を確認し、開発担当者は実際の利用を妨げる技術上の障壁を調べます。
両者の確認結果を同じ改善計画にまとめることで、法的な論点と利用者の困りごとのどちらも見落としにくくなります。
アクセシビリティ改善を進める五つの手順
- 対象となるサービスを整理する:商品情報の閲覧、割引の利用、注文、予約、問い合わせなど、利用者が達成したい主な目的を書き出します。
- 途中で止まる箇所を調べる:自動検査だけに頼らず、キーボード操作、スクリーンリーダー、音声入力などでも一連の手続きを確認します。
- 利用への影響で優先順位を決める:注文や申請を完了できない問題を先に扱い、個別ページの軽微な不備と区別します。
- WCAGを共通の確認軸として修正する:見出しや入力項目の構造、操作方法、情報の伝わり方を確認し、設計、実装、コンテンツを修正します。
- 当事者テストと再検証を続ける:障害のある利用者から具体的なフィードバックを受け、更新後も同じ手続きが利用できるかを確かめます。
診断は問題の発見で終わりません。
担当者、修正期限、再検証の方法まで決めておくと、サイト更新による不具合の再発を追いやすくなります。
開発者、デザイナー、コンテンツ担当者が同じ基準を理解できるよう、定期的な研修と情報共有も組み込みます。
法的確認とサイト改善を分けない
ウェブアクセシビリティ訴訟は、オンライン上の操作が実際のサービス利用と切り離せないことを示しています。
ただし、米国の個別事例を日本の法的義務へそのまま置き換えたり、上告不受理を最高裁の実体判断として扱ったりすることはできません。
企業が進めるべきなのは、訴訟の有無だけを基準に対応を決めることではありません。
利用者が情報を得て、選び、申し込み、購入するといった主要な行動を完了できるかを継続して確かめ、見つかった障壁を改善することです。
当社では、ウェブアクセシビリティ施策の一つとして導入できるUUU ウェブアクセシビリティウィジェットツールを提供しています。
ウィジェットだけでサイト全体のアクセシビリティや法令への適合が保証されるわけではないため、診断、実装修正、当事者テスト、継続的な運用と組み合わせてご検討ください。

