国や地方公共団体のWebアクセシビリティ対応は、一つの法律や一つのチェックリストだけで決まるものではありません。
障害者基本法が示す施策上の責務、障害者差別解消法が定める差別の禁止と合理的配慮、JISやWCAGが示す技術的な基準を分けて理解する必要があります。
「障害者基本法によって、すべての公共サイトにWCAG 2.1への準拠が一律に義務付けられた」という説明は正確ではありません。
この記事では、法律と技術標準の役割を整理したうえで、行政サイトやオンライン手続を継続的に改善する手順を説明します。
Webアクセシビリティとは
Webアクセシビリティとは、心身の機能や利用環境にかかわらず、Web上の情報やサービスを利用できる状態を指します。
対象はWebページだけではなく、申請フォーム、予約システム、PDF、動画、スマートフォン向け画面なども含みます。
例えば、画像の内容を伝える代替テキストがあれば、画面を読み上げるソフトを利用する人も情報を受け取れます。
キーボードだけで移動と操作ができ、現在位置を示すフォーカスが見えれば、マウス操作が難しい人も手続を進めやすくなります。
動画に字幕や内容を補うテキストがあれば、音声を聞き取りにくい人も情報を確認できます。
法律と技術標準の役割
法律は国や地方公共団体などに求める責務や行為を定め、JISやWCAGはWebコンテンツの状態を設計、実装、評価するための基準を示します。
| 根拠 | 主な役割 | Web担当者が押さえる点 |
|---|---|---|
| 障害者基本法 | 第22条で、国と地方公共団体に対し、障害者が情報を取得、利用し、意思を表示し、意思疎通できるよう必要な施策を講じることを求めています。 | 情報利用のバリアフリー化を施策として進める根拠です。特定のWCAG版への一律準拠を直接定めた条文ではありません。 |
| 障害者差別解消法 | 行政機関等と事業者に不当な差別的取扱いの禁止を定め、社会的障壁を取り除くための合理的配慮を求めています。 | 利用者から配慮の申出があった場面への対応と、申出がなくても利用しやすくする事前の環境整備を区別して進めます。 |
| JIS X 8341-3:2016 | 日本のWebコンテンツ向けアクセシビリティ規格です。 | 対象範囲と目標を決め、設計、実装、試験、結果公表の共通基準として活用します。 |
| WCAG | W3Cが公開する国際的なWebアクセシビリティガイドラインです。 | 知覚可能、操作可能、理解可能、堅牢という原則のもと、達成基準に照らして改善します。 |
障害者基本法が求めること
障害者基本法第22条は、情報通信機器の普及、通信や放送の利用上の利便、情報提供施設、意思疎通を支える人材などについて、国と地方公共団体が必要な施策を講じるよう定めています。
この規定は情報利用のバリアを減らすための広い政策上の責務であり、「すべての行政サイトをWCAG 2.1に準拠させる」という個別の技術要件を書いたものではありません。
したがって、担当者は障害者基本法だけを見るのではなく、障害者差別解消法、組織の対応要領、調達仕様、JISやWCAGなどを合わせて確認する必要があります。
合理的配慮と環境整備の違い
合理的配慮とは、障害のある人から社会的障壁を取り除く必要があると伝えられたとき、過重な負担にならない範囲で、個別の状況に応じた対応を検討して提供することです。
行政機関等は障害者差別解消法第7条に基づき、合理的配慮を提供する義務を負います。
事業者についても、2024年4月1日から同法第8条に基づく合理的配慮の提供が義務になりました。
一方、環境整備は、不特定多数の利用者を想定してあらかじめ設備、運用、職員研修などを改善する取組です。
Webサイト全体のキーボード操作を改善することや、更新担当者向けに代替テキストのルールを定めることは、環境整備の例です。
これに対し、利用者から申出を受けて、アクセスできないPDFの内容を別の形式で提供することは、合理的配慮として検討する場面になり得ます。
個別対応だけを続けると同じ障壁が残るため、申出の内容を全体改善へつなげる運用が必要です。
JISとWCAGをどう使うか
日本では、JIS X 8341-3:2016がWebアクセシビリティの規格として広く参照されています。
このJISはWCAG 2.0と整合する規格であり、WCAG 2.1をそのまま法的義務にしたものではありません。
W3Cは現在、WCAG 2.2を公開しています。
デジタル庁もJIS X 8341-3:2016を参照しつつ、スマートフォン対応など新しい課題を扱うウェブアクセシビリティ導入ガイドブックを公開しています。
組織は、適用される法令、政府の標準ガイドライン、組織内規程、調達条件を確認し、対象範囲と目標とする適合レベルをアクセシビリティ方針に明記します。
WCAG 2.2の達成基準と実務上の考え方は、別の記事で詳しく解説しています。
国と地方公共団体が進める実務
- 対象を把握する:公式サイトだけでなく、申請フォーム、外部サービス、PDF、動画、緊急情報ページまで棚卸しします。
- 方針と目標を決める:対象範囲、参照する規格、目標とする適合レベル、期限、例外、問い合わせ先を明文化します。
- 調達条件に入れる:制作や改修を外部へ委託する場合は、納品物、試験方法、試験結果、改修責任を仕様書で定めます。
- 設計と実装で防ぐ:見出し構造、文字と背景のコントラスト、キーボード操作、フォームのラベル、エラー表示などを制作工程で確認します。
- 自動と手動で試験する:診断ツールに加え、キーボード操作、画面読み上げ、拡大表示、スマートフォン表示を人が確認します。
- 結果と連絡方法を示す:アクセシビリティ方針、試験結果、既知の問題、改善予定、利用者が困ったときの連絡先を公開します。
- 更新を監視する:記事追加やシステム改修のたびに確認し、利用者の申出を改善計画へ反映します。
発注、設計、実装、運用の担当範囲を整理したい場合は、Webアクセシビリティを実務に組み込むチェックポイントも参考になります。
実装と確認の具体例
| 利用上の障壁 | 主な対応 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 画像の意味が音声で伝わらない | 情報を伝える画像に、目的と文脈に合う代替テキストを設定します。装飾画像は読み上げ対象から外します。 | 画像を見なくても、同じ目的を達成できる説明になっているかを人が確認します。 |
| マウスを使わないと操作できない | リンク、ボタン、メニュー、ダイアログ、入力欄をキーボードで操作できるようにします。 | Tabキーなどで順番に移動し、現在位置が見え、すべての操作を完了できるか確認します。 |
| 動画の音声情報を受け取れない | 内容に応じて字幕、文字起こし、音声以外の説明を提供します。 | 音声を再生しなくても、必要な情報を理解できるか確認します。 |
| フォームで入力方法や誤りが分からない | 入力欄にラベルと説明を関連付け、誤りの場所と直し方を文章で示します。 | 画面読み上げとキーボードで入力し、エラーから修正して送信できるか確認します。 |
| PDFの読み順や構造が伝わらない | 見出し、段落、表、画像説明などの文書構造を設定し、必要に応じてHTML版も用意します。 | 読み上げ順、拡大時の見え方、代替形式の有無を確認します。 |
代替テキストの要否と書き方は、代替テキストとalt属性の実務解説で具体例を紹介しています。
診断ツールだけでは判断できないこと
自動診断ツールは、コード上の欠落や一部のコントラスト不足などを効率よく見つける手段です。
しかし、代替テキストが画像の役割を正しく説明しているか、フォーカスの移動順が自然か、エラーメッセージが理解しやすいかといった点は、人による確認が欠かせません。
ツールの点数は改善箇所を探す目安であり、その点数だけで利用可能性や規格への適合を証明できるわけではありません。
自動試験、手動試験、利用者からのフィードバックを組み合わせ、問題の修正後に再試験する流れを定着させます。
受託企業と民間事業者が確認すること
自治体や公共機関からWeb制作やシステム開発を受託する企業は、発注者のアクセシビリティ方針と調達仕様を実装、試験、納品物へ落とし込む必要があります。
「JISに対応する」とだけ書かれた仕様では、対象ページ、適合レベル、試験方法、例外、公開後の修正範囲が曖昧なまま残ります。
契約前にこれらを具体化し、コンテンツ作成者、デザイナー、開発者、試験担当者、運用担当者の責任を分けます。
民間事業者には障害者差別解消法上の合理的配慮の提供義務があり、Web上の障壁が個別の申出に関係する場合もあります。
具体的な対応は障害の状態、利用場面、代替手段、負担の程度によって異なるため、利用者との対話を通じて検討します。
担当者が押さえる結論
- 障害者基本法は情報利用のバリアフリー化に必要な施策を国と地方公共団体へ求めますが、WCAG 2.1への一律準拠を直接定めた法律ではありません。
- 障害者差別解消法に基づく合理的配慮と、あらかじめWeb上の障壁を減らす環境整備は、役割を分けて進めます。
- JIS X 8341-3やWCAGは、方針、調達、設計、試験、改善を共通の基準で進めるために使います。
- 自動診断だけで完了とせず、手動試験と利用者からのフィードバックを継続的な改善へつなげます。
個別の案件でどの法令、組織内規程、調達条件が適用されるかは、所管部署や必要に応じて専門家へ確認してください。
当社では、Webアクセシビリティ対応を支援するUUU ウェブアクセシビリティウィジェットツールを提供しています。
ツールの導入は改善手段の一つであり、サイト本体の設計、コンテンツ、キーボード操作、フォーム、運用体制まで含めて確認することが大切です。

